ブランチライン・カプラの動作原理を説明します。必要最小限の説明ですので、詳しい理由を知りたい場合には、各リンク先を参照してください。
ブランチライン・カプラ
ブランチライン・カプラは、4つのポートを有する井桁状の分布定数回路です。4つのポートはそれぞれ特性インピーダンスZ0でマッチングがとられ、終端されます。
伝送線路が無損失の場合、ポート1から入力された電力はポート2とポート3から半分ずつ出力されます。このとき、出力される波の位相差は90°になります。ポート4からの出力はありません。
偶モードと奇モード
ブランチライン・カプラの動作は、偶モードと奇モードに分けて解析します。
偶モードと奇モードに分けて解析する方法は、対称回路を解析するための有力な手法の1つです。
偶モードでは、ポート1とポート4を共に+1/2の振幅で励振します。このとき、上下は対称に動作し、中央で切り離してもそれぞれの動作に影響を与えません。よって、上半分で解析し、下半分も同様と見なすことができます。切断面は開放、又はオープンといいます。
奇モードでは、ポート1を+1/2、ポート4を-1/2の振幅で励振します。このとき、上下は逆相に動作し、中央の交流的な電位を0としても、すなわち接地しても、それぞれの動作に影響を与えません。よって、上半分で解析し、下半分は符号を逆にすることで、結果を流用できます。切断面は接地、又はショートといいます。
回路解析では重ね合わせが成り立ちます。
偶モードと奇モードの結果を重ね合わせると、ポート4を励振しない状態で、ポート1を1の振幅で励振した場合の結果が得られます。
偶モードの解析
先ず、上半分を用いて偶モードで解析します。
ポート1、2間の伝送線路の特性インピーダンス(偶モード)
先ず、ポート2から下に延びる伝送線路に注目します。
これは、先端がオープンになっています。先端がオープンの伝送線路は一般的にオープンスタブと呼ばれます。スタブ(stub)は「切り株」とか「(鉛筆などの)使い残り」を意味します。
λ/8のオープンスタブのインピーダンスをスミスチャートで考えます。
オープン端はインピーダンスが無限大なので、スミスチャートの右端に位置します。このスミスチャートの特性インピーダンスは、伝送線路の特性インピーダンスであるZ0です。
オープンスタブの長さはλ/8であり、スミスチャート上では、時計回りにπ/2の回転角に相当します。よって、反射係数は-jになります。
これをインピーダンスZOpenStubに直すと、
となります。
次に、このオーブンスタブとポート2の終端抵抗を並列接続したインピーダンスを考えると、
となります。
この議論はポート1側でも同様に成り立ちます。すなわち、この並列インピーダンスは、ポート1側のオープンスタブと、ポート1の終端抵抗を並列接続したインピーダンスに一致します。
ところで、このポート1側の地点において、右側を見たときのインピーダンスを共役にすることができれば、マッチングがとれます。右側を見たときの具体的なインピーダンスとしては、
です。この地点でマッチングを取ると、左側のオープンスタブが無損失回路かつ、後述のように相反定理も成り立つため、ポート1からみたインピーダンスもZ0になるように、マッチングが取れます。
λ/4線路で共役インピーダンスに変換する方法としては、特性インピーダンスの値を相乗平均にすることで実現できます。すなわち、このλ/4の伝送線路の特性インピーダンスは、
である必要があります。
ポート1、2間のSパラメータ(偶モード)
偶モードの上半分の回路は、オープンスタブ、λ/4伝送線路、オープンスタブの3つの縦続接続として考えることができます。
縦続接続するにはFパラメータが便利です。
オープンスタブは、並列インピーダンスなので、Fパラメータは、
となります。これはなので、前に断っておいたように、相反定理が成り立っています。
また、無損失のλ/4伝送線路のFパラメータは、
となります。ただし、は位相定数で、
です。
よって、縦続接続したときのFパラメータは、
となります。
さらに、FパラメータをSパラメータに直すと、
となります。
よって、
なので、ポート1側もポート2側もマッチングがとれていることが分かります。また、透過係数は、
となります。
奇モードの解析
次に、上半分を用いて奇モードで解析します。偶モードと同様の考え方です。
ポート1、2間の伝送線路の特性インピーダンス(奇モード)
ショートスタブのインピーダンスを求めます。
スミスチャートで反射係数を求めると、
となります。
ショートスタブと終端抵抗を並列接続したインピーダンスは、
となります。よって、共役のインピーダンスは、
です。
λ/4伝送線路によって共役インピーダンスに変換するためには、特性インピーダンスを相乗平均にすればよいので、
となります。これは、偶モードの結果と一致します。
ポート1、2間のSパラメータ(奇モード)
奇モードにおける2端子対網の縦続接続は、オープンスタブがショートスタブに置き換わってインピーダンスの符号が逆になります。縦続接続したときのFパラメータは、
となります。
よって、Sパラメータは、
となります。
よって、
なので、奇モードにおいても、ポート1側とポート2側のマッチングがとれていることが分かります。また、透過係数は、
となります。
偶モードと奇モードの解析結果を重ね合わせる
偶モードと奇モードの解析で得られた反射係数や透過係数は、入力振幅を1として求めたときの値です。これらを重ね合わせる際には、振幅を1/2にすることに気を付けます。
先ず、ポート1とポート2の反射係数は、
となります。また、回路の対称性から、
となります。よって、ポートは全てマッチングが取れています。
次に透過係数を求めます。ポート2へは、
となります。振幅は倍になるので、電力として
が出力されます。また、位相は
、すなわち、
遅れます。
ポート3へは、
となります。やはり、振幅は倍になるので、電力として
が出力されます。また、位相は
、すなわち、
遅れます。よって、ポート2との位相差は
になります。
ポート4へは、
となるので、出力はされず、アイソレートポートとなります。
まとめ
ブランチライン・カプラは、簡単な構成なのに、動作原理は複雑です。
ポート4がアイソレートポートになることは理論的には理解し、納得できました。しかし、直感的にはポート2との違いが明確でなく、未だに不思議に思えます。
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