コレクタ接地回路は、普通、エミッタフォロワと呼ばれます。
エミッタ電圧がベース電圧を追随するからです。
電圧入力、電圧出力でゲインが1のアンプですが、入力インピーダンスが高いことと、出力インピーダンスが低いことで、使い勝手の良いアンプです。
エミッタフォロワの考え方
トランジスタのような3端子素子は、一般に、1つ目の端子を接地し、2つ目の端子から入力し、3つ目の端子から出力するという使い方をします。
コレクタを接地すると、ベースとエミッタという2つの端子が残ります。
あなたなら、どちらを入力にして、どちらを出力にしますか?
これは、以前の記事で議論したバイポーラトランジスタの等価回路です。
ここで、ベース電流ibとエミッタ電流ieは、
ですので、同じvbeに対して、
となります。つまり、エミッタから入力を与えてVbeに微小変化を起こさせる場合と、ベースから入力を与えてVbeに微小変化を起こさせる場合とでは、前者の方がBF倍の電流を必要とするということです。すなわち、ベース側を入力、エミッタ側を出力にする方が駆動電流が少なくなり、使い易いということになります。言い方を変えれば、コレクタ接地回路は、高インピーダンスのベースから入力し、低インピーダンスのエミッタから出力するようにして使います。
問題
突然ですが、ここで問題です。
ただし、NPNトランジスタ1つを使用し、受信振幅を低下させないように最大限の工夫をすることができます。直流電圧の変化(レベルシフト)は問いませんが、信号を反転させてはいけません。
あなたならどのような工夫をしますか?
まず、トランジスタを使わない場合を考えると、
となり、振幅が1/5に低下してしまいます。
では、トランジスタをどのように使えばいいでしょうか?
エミッタフォロワ(コレクタ接地)の記事なのですから、エミッタフォロワなのでしょうか?
正解です。
ベース側を入力、エミッタ側を出力にすれば、トランジスタにあまり電流を流さなくてすみますが、50Ωを大電流で駆動できます。
そこで、信号源にベースをつなぎ、エミッタから出力してみました。
コレクタは、接地ということで、グラウンドに接続しています。
エミッタは、少し負の電圧で引っ張っておかないと、電流が流れないので、50Ωの先を-2Vの電圧源につないでみました。こんな感じでいかがでしょうか?
LTspiceシミュレーション
LTspiceでシミュレーションしてみます。
信号源のTrise、Tfallは出力の帯域に影響を与えないように、それぞれ500psと短い値にしました。
トランジスタのモデルには、LTspiceのモデルにあった、2N3904を選びました。秋月電子通商の商品説明のページによれば、2N3904は、2SC1815という定番トランジスタとほぼ等しい電気的特性と記されているためです。
シミュレーション結果を示します。
ベース電圧(vin)が既に鈍っています。電圧源側の200Ωの出力抵抗と、トランジスタの寄生容量によるローパスフィルタの影響でしょう。
エミッタ電圧(Vout)は、約700mV低い電圧で、ベース電圧を追随しています。エミッタフォロワのネーミングの由来がよく分かります。
エミッタにおける振幅は、760mVpp取れています。振幅が5%の減少で済んでいるのは、ベースが高インピーダンスである証拠です。
立ち上がり時間は5.8nsなので、帯域は約60MHz(=0.35/5.8[ns])です。この値は、以前の記事で調べたエミッタ接地回路の64.6MHzより小さい値となっています。ただ、エミッタ接地回路は50Ωで駆動しており、本回路の200Ω駆動よりずっと有利な条件ですので、直接の比較はできません。
実は、このエミッタフォロワは、ECL(Emitter-coupled logic)という高速ロジックで、信号を送受するために使われている方法そのものです。
ロジック回路ですので、振幅が約5%減少していることは、ほとんど問題にはなりません。
立ち上がり時間は、標準的なECLの数倍を要しています。これを短くするためには、入力容量が数分の1以下であるような高速トランジスタを使うしかありません。ただ、この2N3904を用いた回路をECLに直接接続しても問題なく動作します。
もし、ECLに興味がありましたら、次の記事をご覧ください

まとめ
本記事は、まず、コレクタ接地(エミッタフォロワ)の入出力について考察しました。その後、ECLで使われているエミッタフォロワをシミュレートし、エミッタ電圧がベース電圧を追随していることを確認しました。
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