この本は、古事記を分かりやすく現代語に訳してあります。
しかし、訳の中に解説が混在している個所があったり、文章が表形式に変更されている個所がありました。それらが読んでいて気になりました。
選定理由
街中を歩いていると、神社が所どころにあります。神社にはたいてい立て札が立っていて、縁起が書いてあります。しかし、それぞれの神様を存じ上げないので、いまいちピンときませんでした。そこで、古事記を読むことにしました。古事記を読めば、天満宮や東照宮のような比較的最近の神様を除き、昔からの神様について一通り学ぶことができると考えました。
内容概略
天地の始まりから推古天皇の時世までの出来事が書いてあります。
有用度
本書を読んで分かったことを書き始めるときりがありません。
最もためになったことは、須佐之男命(すさのおのみこと)と倭建命(やまとたけるのみこと)との区別が明確になったことです。性格が似ているので、いままでは混同していました。また、倭建命については、後述するように、足跡を残した場所を何か所か訪れたことがあったので、特に身近に感じられました。
次に、人間や天皇に寿命がある理由が分かりました。
前者は、伊耶那美神(いざなみのかみ)が伊耶那岐神(いざなきのかみ)に離別を言い渡され、その腹いせのためです。
後者は、神武天皇の曽祖父の邇邇芸命(ににぎのみこと)が、美しい木花佐久夜毘売(このはなさくやびめ)とだけ結婚し、醜い石長比売(いわながひめ)を親元に送り返したためです。
生物学的に考えれば、これらの話は紛れもなく創作話です。しかし、歴代の日本人が受け継いできた人生観なのです。それを遅まきながらも知ることができて良かったと思います。
また、海幸彦・山幸彦の話は知っていました。しかし、山幸彦(=火遠理命(ほおりのみこと))の孫が神武天皇であることを初めて知りました。さらに、山幸彦の妻である豊玉毘売(とよたまびめ)は八尋和邇(やひろわに)でした。天皇の祖先が和邇であったなんて書いてしまってよいものだったのでしょうか。それとも、当時の和邇は、龍のような高貴な伝説上の生き物で、あやかりたいと感じたためでしょうか。
現代語訳は分かりやすく、ところどころに織り交ぜてある解説コラムも有用です。
ただ、訳の中に解説や意見を混ぜて欲しくはなかったです。著者が「はじめに」で述べているように、「原文を省略せず、できるだけ全文を現代語に翻訳する」ことを守って欲しかったです。
実生活への応用
今後神社を訪ねる場合、より深い理解が得られると思います。街歩きが楽しみです。
その他
古事記の中に、訪れたことのある地名がいくつか出てきました。
参考までに、写真とともに掲げておきます。
出雲大社
島根県出雲市の出雲大社は、国を譲った大国主神を祀っています。
- 大遷宮中の出雲大社
- 御仮殿の注連縄
訪れた時は60年振りの大遷宮でした。その時は、Gパンをはいていたため、神様に失礼だとのことで中に入れてもらえませんでした。
地面に直径1.4mの柱を3本束ねた宇豆柱の跡が示されていた箇所がありました。しかし、写真を撮り忘れてしまいました。
宇豆柱の実物は古代出雲歴史博物館に展示されています。また、同博物館には古事記の複製が展示されていて、それを見ると厳粛な気持ちになりました。
草薙神社大鳥居
静岡県静岡市の草薙神社の祭神は日本武尊です。草薙神社を訪れた訳ではありませんが、この鳥居は旧東海道沿いにあり、前を通った時に撮影しました。
三種の神器の1つである天叢雲剣が草薙剣と呼ばれるようになった舞台です。
酒折宮
山梨県甲府市の酒折宮は、「新治 筑波を過ぎて 幾夜か寝つる」(新治、筑波を出てから今まで幾晩寝ただろうか?)という倭建命(日本武尊)の問いかけに、老人が「日々(かが)並(なべ)て 夜には九夜(ここのよ) 日には十日を」(数えてみると夜間は9日、昼間は10日です)と答えた連歌発祥の地とされています。
熱田神宮
熱田神宮の御神体は天叢雲剣です。三種の神器の本物です。
書籍情報
竹田恒泰:現代語 古事記 ポケット版、学研プラス、2016、ISBN978-4-05-406454-6