理系国家資格試験向け法律の基礎知識

はじめに

国語や社会が得意でなく、法律から遠いところで人生を歩もうと理系を選びました。でも、資格試験対策やコンプライアンス遵守のため、法律の勉強をする必要がだんだんと出てきてしまいました。
どこから手を付けてよいか分からないし、もう、うんざり。

僕はつい最近までそんな思いをしていました。

今でも得意になったわけではありません。
でも、法律の基礎知識を学んだり、条文の検索方法を工夫したりしていると、少しずつ苦手意識が薄れてきてました。

国家資格と法律

資格試験、中でも国家資格試験では、往々にして法律(法規・法令)分野が出題範囲に含まれます。例えば、運転免許なら「道路交通法」関連、ボイラー技士なら「労働安全衛生法」関連や「ボイラー及び圧力容器安全規則」から出題されます。

法律が不得意でも、全問不正解だと合格できないのであれば、必然的に勉強するしかありません。

ただし、出題される範囲が毎回同じで、テキストや問題集にバリエーションが網羅されているのであれば、丸暗記で対応可能です。この場合は、こじつけなどで覚えてしまうことが合格への近道だと思います。

僕も、運転免許、二級ボイラー技士、技術士(電気電子)等は、丸暗記で対処してきました。

しかし、その後受験した労働安全コンサルタント試験は、法令の出題範囲が広く、構造が複雑なので、単純な丸暗記では対応できませんでした。

いや、実際は、丸暗記で合格できるのかもしれません。

でも、自力で法令調査ができないと、その資格で起業したときに、お客様への説明が曖昧になり、信用を失う可能性があります。

「丸暗記から少し進んだ法律リテラシを身につけて、資格試験に合格するとともに、起業した時も自力調査ができるようになること」がこのサイトの課題です。

独学では気づきにくい法律の決まりごと

法律の条文を見ていておかしいなと思うことがありました。
例えば、日本国憲法第二十一条です。

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保証する。

2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

なんで条文は漢数字で、次の2は算用数字なのでしょう。
そもそも2があるのに、1が見当たりません。どこへ行ったのでしょう。

こんなことが気になりだすと、本来の資格試験の勉強が進みません。
後日、これが法律の決まりごとの1つということを知りました。

法律の決まりごとは、試験の過去問を独学で学んでいるだけではなかなか気づきにくく、次節に述べる吉田氏の本などで知りました。

僕が最低限知っておいた方が良い法律の決まりごとは、次の3項目だと考えています。

【条、項、号】

  • 法令は、条から構成されます。条番号は漢数字で表されます
  • 条は、項から構成されます。項番号は算用数字で表されます
  • 第1項の項番号表記は略されます
  • 項の中でことがらを挙げる場合には号を用います。号番号は漢数字で表されます

※ 数字の表現は一般論であって、編集者の意図により、漢数字と算用数字の使い分けが変更される場合があります。また、第1項に項番号が付けられる場合もあります

【法律、政令(施行令)、省令(規則)】

  • 法律は国会を通じて成立します
  • 政令は、憲法及び法律の規定を実施するために内閣が制定する命令です
    • 施行令は、特定の法律を施行するための政令です
  • 省令は、法律若しくは政令を施行するために各省の大臣が発する命令です
    • 規則は、特定の法律を施行するための省令です
  • 政令や省令は、法律の委任がなければ義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができません
  • 法律は上位の法規範であり、政令、省令の順に下位になります
  • 法令相互に矛盾がある場合、上位法令が下位の法令に優先します

【「又は」「若しくは」「及び」「並びに」の使い分け】

「又は」と「若しくは」

「又は」が大きな分け方、「若しくは」が小さな分け方です。

東京から新宿に行くには、JR山手線若しくはJR中央線又は東京メトロ丸ノ内線に乗ればよい。

山手線と中央線は同じJRなので、小さな分け方の「若しくは」を用いています。JRに対して丸ノ内線は東京メトロなので、大きな分け方の「又は」を用いています。

「並びに」と「及び」

「並びに」が大きなまとまり、「及び」が小さなまとまりです。

調味料として、味噌及び醤油並びにナンプラー及びバルサミコ酢を揃えている。

味噌と醤油は日本の調味料、ナンプラーとバルサミコ酢は海外の調味料なので、それぞれ小さなまとまりの「及び」を用いています。

さらに調味料という大きなまとまりにするため「並びに」で括っています。

【例題】

ではここで、例題です。次の条文が読み解けますでしょうか?

技術士法 第四十四条 技術士又は技術士補は、技術士若しくは技術士補の信用を傷つけ、又は技術士及び技術士補全体の不名誉となるような行為をしてはならない

法律の基礎知識を身につけるための本

僕が知りたいと思う法律の基礎知識は、以下に紹介する本の中に、ほとんど書いてありました。

吉田利宏、元法制局キャリアが教える法律を読む技術・学ぶ技術[改定第3版]、ダイヤモンド社、2016

吉田氏は、もともと法律を作成していた方です。

法律を作成していた方の文章は、堅くて分かりにくいだろうと想像していました。しかし、本来はユーモラスな方のようです。その証拠に、目次から見出しを2、3挙げてみます。

  • 法律の構造は京都の町に似ています
  • 「お父さんのお小遣いに関する法律」を改正してみよう

本体の文章も面白く、一気に読めてしまいました。

この本には、資格試験に必要な知識以外のことももちろん書かれています。僕が特に興味を引かれたのは、専門用語でした。

  • 善意:事情を知らないこと
  • 悪意:事情を知っていること
  • 却下:「不適正な訴え」として内容を検討されずに退けられること
  • 棄却:「理由がない訴え」として内容を検討した上で退けられること
  • 諾成(だくせい)契約:「売った!」「買った!」の応答だけで契約が成立すること

「棄却」については、単なる門前払いだと思っていました。また、「諾成」については、文章に残さないと、契約が成立しないと考えていました。どちらも目からウロコでした。

その他、憲法学習で出てくる読みにくい判例名が列挙されており、1件ずつ内容を調べてみました。すると、些細なことで最高裁にまでもつれこむ事例が何件もあり、無味乾燥だと思っていた法律や裁判が結構身近なことにかかわっていることに気づかされました。

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