特性インピーダンスの不連続点で生じる反射について

ある特性インピーダンスの伝送線路を伝わっている電磁波が、異なるインピーダンスの領域に達すると、その不連続点で反射が起こります。電圧と電流の辻褄を合わせるためです。

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インピーダンス不連続点における反射の具体例

高速信号や高周波信号は、特性インピーダンスが一定の線路を用いて伝送します。
ところが、意図せず、又は意図的に、異なるインピーダンスが接続される場合があります。

伝送線路の不連続点

伝送線路の不連続点

図は、特性インピーダンスZ0の線路に、特性インピーダンスがZLの線路が接続される例です。ZLは、伝送線路に限ることはなく、抵抗などの素子でも構いません。

このとき、どんなことが起こるでしょうか?

まず、特性インピーダンスがZ0のところを伝送していた信号の電圧がV1、電流がI1だったとします。直流でも交流でも構いませんが、どちらかといえば、直流の方がイメージしやすいと思います。このとき、V_{1}/I_{1}=Z_{0}です。別に問題ありませんよね?

ここで、信号がZLとの境に達したとします。電圧はZ0の領域とZLの領域で、連続である必要があります。また、電流の一部がどこかに消え去ったり、増えたりすることもできません。
素直に考えると、V_{1}/I_{1}=Z_{0}\neq Z_{L}です。このままでは信号がZLの領域に入り込むことができません。

でも、現実的にはZLの領域にも信号は伝わります。
この現象をどのように考えたらよいのでしょうか?

反射

反射

ここで登場するのが、反射です。
伝送線路Z0を逆向きに戻る信号V3、I3が発生するのです。
これにより、ZLの領域中に信号V2、I2が入っていくことができます。

では、ここで、具体的な値として、Z_{0}=50\left[\Omega\right]Z_{L}=75\left[\Omega\right]を用いて考えてみましょう。

まず、信号1、2、3は、特性インピーダンスがそれぞれ50 Ω、75 Ω、50 Ωの線路を伝わるのですから

    \begin{eqnarray*} V_{1} &=& 50I_{1} \\ V_{2} &=& 75I_{2} \\ V_{3} &=& 50I_{3} \end{eqnarray*}

です。
次に、重ね合わせにより、V1とV3を加えるとV2になるので、

    $$ V_{1}+V_{3}=V_{2} $$

です。すなわち、

    \begin{eqnarray*} 50I_{1}+50I_{3} &=& 75I_{2} \\ \therefore 2I_{1}+2I_{3} &=& 3I_{2}~~~\eq(1) \end{eqnarray*}

です。また、I1からI3を引くとI2になるので、

    \begin{align*} I_{1}-I_{3}=I_{2}~~~\eq(2) \end{align*}

です。
(1)と(2)を連立させて解くと、

    \begin{eqnarray*} I_{2} &=& \frac{4I_{1}}{5} \\ I_{3} &=& \frac{I_{1}}{5} \end{eqnarray*}

となり、これから電圧を求めると、

    \begin{eqnarray*} V_{2} &=& \frac{6V_{1}}{5} \\ V_{3} &=& \frac{V_{1}}{5} \end{eqnarray*}

となります。

ここで、具体的な値として、V_{1}=50\left[V\right]I_{1}=1\left[A\right]とすると、V_{2}=60\left[V\right]I_{2}=0.8\left[A\right]V_{3}=10\left[V\right]I_{2}=0.2\left[A\right]となります。

ちなみに、送信電力V_{1}I_{1}=50\cdot1=50\left[W\right]に対し、透過した電力はV_{2}I_{2}=60\cdot0.8=48\left[W\right]、反射した電力はV_{3}I_{3}=10\cdot0.2=2\left[W\right]なので、当然ながらエネルギー保存則も満たしています。

反射係数

反射係数を求める

ここで、具体的数字をいったん忘れて、Z0 やZLの式に戻ります。すなわち、

    \begin{eqnarray*} V_{1} &=& Z_{0}I_{1} \\ V_{2} &=& Z_{L}I_{2} \\ V_{3} &=& Z_{0}I_{3} \\ V_{1}+V_{3} &=& V_{2} ~~~\eq(3)\\ I_{1}-I_{3} &=& I_{2} ~~~\eq(4) \end{eqnarray*}

です。ここから、V3とV1 の比を考えることとします。つまり、入力電圧を与えたときにどの程度の反射が返ってくるかを調べます。

まず、(4)のIをVで置き換えると、

    \begin{eqnarray*} \frac{V_{1}}{Z_{0}}-\frac{V_{3}}{Z_{0}} &=& \frac{V_{2}}{Z_{L}} \\ \therefore {Z_{L}}{V_{1}}-{Z_{L}}{V_{3}} &=& {Z_{0}}{V_{2}}~~~\eq(5) \end{eqnarray*}

となります。また、(3)の両辺にZ0を乗じると、

    $$ {Z_{0}}{V_{1}}+{Z_{0}}{V_{3}} = {Z_{0}}{V_{2}}~~~\eq(6) $$

となるので、(5)と(6)の差を取ると、

    \begin{eqnarray*} \left({Z_{L}}-{Z_{0}}\right){V_{1}}+\left({Z_{L}}+{Z_{0}}\right){V_{3}} = 0 \\ \therefore \frac{V_{3}}{V_{1}}=\frac{{Z_{L}}-{Z_{0}}}{{Z_{L}}+{Z_{0}}} \end{eqnarray*}

となります。最後に求まった入出力の電圧比を反射係数といいます。この式は、抵抗成分だけでなく、リアクタンス分が入っていても成り立ちます

反射係数は、普通、Γ(ガンマ)で表されます。また、高周波分野でよく使われる散乱パラメータSijにおいて、i = jの場合も反射係数です。

反射係数の式は大切で、高周波回路を扱う場合、覚える必要がある式なので、もう一度書いておきます。

    $$ \Gamma=\frac{{Z_{L}}-{Z_{0}}}{{Z_{L}}+{Z_{0}}} $$

反射係数からインピーダンスZLを求める

反射係数からインピーダンスZLを求めることもできます。

反射係数の式から、

    \begin{eqnarray*} \Gamma Z_{L}+\Gamma Z_{0} &=& Z_{L}-Z_{0} \\ \therefore \left(\Gamma -1\right)Z_{L} &=& -\left(1+\Gamma\right)Z_{0} \\ \therefore Z_{L} &=& \frac{1+\Gamma}{1-\Gamma}Z_{0} \end{eqnarray*}

となります。

この式もよく使う式ではありますが、反射係数の式から導けるので、必ずしも覚える必要はありません。

反射係数を具体例で確認する

それでは、反射係数が正しいことを、先ほどのZ0 = 50 [Ω]、ZL = 75 [Ω]の場合で確かめてみます。

    $$ \Gamma=\frac{{Z_{L}}-{Z_{0}}}{{Z_{L}}+{Z_{0}}}=\frac{75-50}{75+50}=0.2 $$

よって、50 Vを入力すると、反射波として50×0.2 = 10 [V]が返ってきます。前述の結果と同じですね。

また、Γ = 0.2から、

    $$ Z_{L}=\frac{1+0.2}{1-0.2}\cdot50=\frac{1.2}{0.8}\cdot 50=75 \left[\Omega\right] $$

が得られます。

特別なインピーダンスZLに対する反射係数

反射係数の式は、分子と分母がそれぞれインピーダンス同士の引き算だったり、足し算だったりします。分子と分母のどちらが引き算だったかとか、引く方と引かれる方を忘れることもあるでしょう。そのようなときは、3種類のインピーダンスに対する反射係数を覚えておけば何とかなります。

第1は、ZL = Z0の場合です。

    $$ \Gamma=\frac{{Z_{L}}-{Z_{0}}}{{Z_{L}}+{Z_{0}}}=\frac{50-50}{50+50}=0 $$

この場合、インピーダンスがマッチしているので、反射が生じず、0となります。このことから、引き算は分子に用いることが分かります。

第2は、ZL = 0の場合です。

    $$ \Gamma=\frac{{Z_{L}}-{Z_{0}}}{{Z_{L}}+{Z_{0}}}=\frac{0-50}{0+50}=-1 $$

-1ということは、逆相で同一振幅が反射されるということです。インピーダンスが0の地点は、入力波と出力波を重ね合わせた振幅が常に0になる地点ということになります。

第3は、ZL = ∞の場合です。

    $$ \Gamma=\frac{{Z_{L}}-{Z_{0}}}{{Z_{L}}+{Z_{0}}}=\frac{\infty-50}{\infty+50}=1 $$

1ということは同相で同一振幅が反射されるということです。インピーダンスが無限大の地点は、入力波の2倍の振幅が観測される地点ということになります。

0が-1、Z0が0、∞が1にそれぞれ変換されるので、数直線と同じ並びになるように、引かれる方ZL と引く方Z0を決めればよいことになります。

スミスチャート

スミスチャート

なお、直交座標に表されたインピーダンス平面全体を反射係数を求める式で変換すると、スミスチャートが得られます。

スミスチャートについては、別途、記事にしたいと思います。

まとめ

伝送線路において、インピーダンスの不連続点では反射が発生します。
本記事では、反射係数を導くとともに、反射係数からインピーダンスを求める方法を示しました。

 

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