連分数展開でサロス周期を求める
前回、連分数展開の記事を書きました。
記事を書いた本当の理由は、日食や月食を予想してみたかったからなんです。
現代は、パソコンが高速化され、時刻と食の状態が高精度に計算できるソフトが無料で使えるようになっています。でも、精度が悪かろうと、自分の手の届く範囲で計算をしたいと思います。車輪の再発明をしたっていいじゃないですか。
手元にある天文学の本※を見てみると、食周期にかかわる4つの周期があります。
すなわち、
- 食年 (しょくねん) E=346.62003日
- 朔望月(さくぼうげつ) S=29.530589日
- 交点月(こうてんげつ) D=27.212222日
- 近点月(きんてんげつ) A=27.554551日
だそうです。
食年は、太陽がその軌道(黄道)と月の軌道(白道)の交点(の片方)を出発して再び交点に戻ってくるまでの時間です。
朔望月は、新月から次の新月までの時間です。
交点月は月が白道と黄道の交点を出発して再び交点に戻ってくるまでの時間です。
近点月は、近い地点(地球に最も近い点)を出発して、再び近地点に戻ってくるまでの時間です。
太陽と月が黄道と白道の交点を同時に出発し、再度、同時に同じ地点に帰ってくれば、再び食が起こります。つまり、食年Eと交点月Dの最小公倍数の周期で食が生じます。でも、あなたはこれらの最小公倍数が求められますか?86億年くらいでしょうか?
人間は、そんなに生きていられないので、連分数の出番です。連分数を使って公倍数の近似値を得るわけです。
すなわち、
E/D = 12.737660 = [12; 1, 2, 1, 4, 3, 5, 1, …]
なので、これを分数に直すと、
12, 13, 38/3, 51/4, 242/19, 777/61, 4127/324, 4904/385, …
となり、分子や分母に周期の日数を乗じてみると、
食年の倍数 交点月の倍数 日数差 食周期
1E= 346.62003, 12D=326.546664, 20.073366, 1年-38日
1E= 346.62003, 13D=353.758886, -7.138856, 1年-11日
3E=1039.86009, 38D=1034.064436, 5.795654, 3年-62日
4E=1386.48012, 51D=1387.823322, -1.343202, 4年-73日
19E=6585.78057, 242D=6585.357724, 0.422846, 18年+11日
のようになります。
また、食年Eと近点月Aについては、
E/A = 12.579411 = [12; 1, 1, 2, 1, 1, 1, 5, …]
となり、分数に直すと、
12, 13, 25/2, 63/5, 88/7, 151/12, 238/19, 1346/107…
となるので、日付にすると、
食年の倍数 近点月の倍数 日数差 食周期
1E= 346.62003, 12A= 330.654612, 15.965418, 1年 -35日
1E= 346.62003, 13A= 358.209163, -11.589133, 1年 -7日
2E= 693.24006, 25A= 688.863775, 4.376285, 2年 -42日
5E=1733.10015, 63A=1735.936713, -2.836563, 5年 -90日
7E=2426.34021, 88A=2424.800488, 1.539722, 7年-132日
12E=4159.44036, 151A=4160.737201, -1.296841, 11年+143日
19E=6585.78057, 238A=6585.537689, 0.242881, 18年 +11日
となります。
食年Eと朔望月Sについては
E/S = 11.737661 = [11; 1, 2, 1, 4, 3, 5, 1,…]
となり、分数にすると、
11, 12, 35/3, 47/4, 223/19, 716/61, 3803/324, 4519/385,…
となるので、日付にすると、
食年の倍数 朔望月の倍数 日数差 食周期
1E= 346.62003, 11S= 324.836479, 21.783551, 1年-40日
1E= 346.62003, 12S= 354.367068, -7.747038, 1年-11日
3E=1039.86009, 35S=1033.570615, 6.289475, 3年-62日
4E=1386.48012, 47S=1387.937683, -1.457563, 4年-73日
19E=6585.78057, 223S=6585.321347, 0.459223, 18年+11日
となります。
これらから、1年-11日は、E/DとE/Sが合っていて、サロス周期(18年+11日)は3つとも合っているので、実用になる食周期と結論付けています。
確かにサロス周期は1日以下の日数差なので、合っていそうです。でも、前者は7日以上の日数差があるのに合っていると言えるのでしょうか?
それに、3年-62日や4年-73日もE/DとE/Sが合っていますよね?日数差は1年-11日より小さいし、これらも実用になる食周期ではないのですか?
実際のデータでサロス周期を調べてみる
さて、国立天文台のサイトには、日食一覧と月食一覧が掲載されています。
日食が48例、月食が32例掲載されています。日食の方が発生回数が少ないイメージがありますが、ほぼ同じ発生確率どころか日食の回数の方が多いんですね。日食は日本で見えないことが多いから肌感覚と違うのでしょうか?
これらから、日数差を調べてみました。
こちらが日食のグラフで、
こちらが月食のグラフです。
横軸は、食と食の日数差です。サロス周期より長い周期のデータは示していません。
縦軸は、発生率です。
データは2010年から2030年くらいの範囲で示されており、日数差が365日くらいなら30回以上出現する可能性がありますが、サロス周期の6585日くらいだと、6~8回しか出現の可能性がありません。よって、出現回数を出現の可能性の回数で割って比率を求めることで、直接比較できるようにしています。
さすがにサロス周期は優秀ですね。日食も月食も100%の出現率です。
2012年5月21日(月)に金環日食を見ることができたのは記憶に新しいところですが、天文台のサイトには、その6585日後の2030年6月1日(土)にも日本で金環日食が見られることが記されています。
よって、同サイトには記載がありませんが、その6585日後の2048年6月11日(木)にも金環日食が見られることと思います。2回連続で日本で見えていますので、3回目も近場で見えることでしょう。
また、日本では、2035年9月2日(日)に皆既日食が見えることになっています。この6585日前は、2012年11月14日(水)で、同じ皆既日食でした。ただし、見えた場所はオーストラリアや南太平洋でした。よって、かなり北側に移っていくので、2053年9月12日(金)は、北極辺りでかろうじて見えるのか、または地球上からは見えないのかもしれません。
ちなみに、本で紹介されていた1年-11日の周期だと、日食の出現率は74%、月食の発生率は67%でした。低くもありませんが、もっと高い率を示す日数差は他にたくさん存在しています。
例えば、先に疑問を呈していた3年-62日はそれぞれ80%と69%ですし、4年-73日も95%と81%です。やはり、これらの周期も実用になることが分かりました。
実際のデータで他に気が付いたこと
日食のグラフにおいて、サロス周期の次に高い発生率を示す日数差は2599日で、97%です。この周期は月食でも90%という高い発生率を示しています。
この周期を食年E、朔望月S、交点月D、近点月Aで割ると、それぞれ、7.498、88.010、95.509、94.322といった値が得られます。すなわち、E、S、Dにとって、0.5の整数倍に近い値となっています。
これは、どういうことでしょう?イメージとしては、春分点で食の計算をしていたら、半周異なる秋分点で食が起きていたといったところでしょうか?
また、日食については、2011年の6月2日と7月1日や、2018年7月13日と8月11日のように、たかだか29日差で発生することもあることに少なからず驚きました。ただ、どちらも部分日食で、片方が北半球、片方が南半球で生じているようです。飛行機代に糸目を付けなければ、1ヶ月で2度の日食が楽しめる年もあるんですね。
まとめ
初歩的な天文学の計算でしたが、楽しめました。
※長谷川一郎:新装改訂版 天文計算入門、恒星社、平成8年(1996)、pp.142~147
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