「ビジネス・ディベート」を読んでみた。客観的論理展開能力が養成されただろうか?

ディベートの本を一冊くらい読んでおこうと思い、本屋さんでたまたま見かけたこの本を買って読んでみました。

茂木秀昭:ビジネス・ディベート、日本経済新聞社、2012、ISBN978-4-523-11258-5

初めの1/3は同じことの繰り返しに思えた

単刀直入にディベートの話が始まるかと思ったら、主として次のような論旨が繰り返し続いていました。

先ず、ディベートの定義です。

「ディベートは、(中略)合理的な判断や解決ができる能力を養成する手法です。(P.17)」

 

次にディベートの効果です。

「ディベートを体験すると(中略)様々な実務能力が養成されます(P.40)」

 

更に、ディベートの現状です。

「ディベートは(中略)90年代以降は様々な起業で導入されてきています(P.56)」

 

このような論旨が、全体の約1/3を占めています。重要なことだとは思いますが、少し長過ぎます。集中力が切れてしまいそうでした。

帰納と演繹について

「ディベートは客観的論理展開能力を養成する訓練であり、実践を通して、体系的なロジックを身につける効果的な手法です(P.42)」とあります。でも、僕には、著者のロジックが分からない個所が何点かありました。

中でも、帰納法と演繹法の説明が分かりませんでした。

著者は、P.74の図2-3で、「原発燃料のウランは可採年数が85年だ」をデータとして、「(一般的に)代替エネルギーは自然エネルギーが有望だ」と論拠を導き、これを帰納法の利用の例としています。

ここで、データと論拠の対象が違うことが、分からなくなる理由です。

「鳥は空を飛ぶ。馬は陸を走る。」が観察された事実として、「魚は水の中を泳ぐ」という法則を導くことはできませんよね?

「太陽光は枯渇しない」「風力発電の羽根は折れることがあるかもしれないが、地域全体で避難するような事故例を聞いたことがない」「バイオマスエタノールはカーボンニュートラルである」「太陽光、風力、バイオマスは再生可能エネルギーである」等の観察された事実から、「代替エネルギーとして、再生可能エネルギーが有望だ」という法則を導くのでしたらまだ分かります。

また、同様に、図2-4で「エコブームである(一般的な傾向)」を論拠、「各社から省エネ製品が多く出ている」をデータとして、「消費電力比較サイトで手数料ビジネスをしよう」と主張しています。僕にはこの論理も理解できません。

「エコロジ関連のビジネスをすれば儲けやすい(かどうかわかりませんが)」を前提として、「電力消費を比較するサイトで手数料を稼ぐ商売は、エコロジ関連のビジネスである」という論理により、「電力消費を比較するサイトは儲けやすいので運営しよう」という結論に至るのなら分かります。

ディベートは話し言葉なので、曖昧な論理でも「そんなものかな」と思ってしまうことでしょう。でも、本は書き言葉なので、論理の曖昧さが目立ってしまいます。

ディベートの試合方法と準備について

P.90からようやくディベートの試合方法が紹介されます。

ただ、ここでも、残念なことに、試合形式例として、根拠が不明瞭な時間配分が示されています(図表2-10)。ディベート甲子園のルールなど、正式な試合形式や時間があるのであれば、先ず、それを示すべきです。そこから、「授業の時間に収まるように、短くしてみた」というような提案を挙げるのであれば、納得できます。

ロジックチャート(P.85)、エビデンス・カード(P.87)、リサーチシート(P.100)等の作り方は、初めて目にするものばかりで、今後の資料作りの参考にはなりました。

立論のパターン

主な立論のパターンには、(1)問題解決型議論、(2)比較優位型議論、の2つがあります(P.136)。

このうち、問題解決型議論は、(1)問題の深刻性、(2)問題の内因性、(3)プランの実現可能性、(4)プランの問題解決能力、(5)メリットとデメリットの比較、の5点が基本争点とのことです。

これは、昔受験したことがある技術士の論文構成のパターンとほぼ同じだと感じました。ちなみに、僕の記憶の中にある技術士の論文構成のパターンは、(1)現状把握、(2)問題提起、(3)解決案の提示、(4)将来展望、です。

比較優位型議論は、少し意訳になりますが、(1)発生過程、(2)実現可能性、(3)重要性、(4)内因性、(5)メリットとデメリットの比較、の5点が基本争点とのことです。

こちらは、(1)、(3)、(5)が似たような概念で、なかなかピンときません。肯定側を持っても、否定側を持っても、対応が難しそうです。

感想

なんだかんだと批評を述べましたが、新たな知識を得ることもできました。

例えば、ディベートは、その場の思いつきで討論していると思っていました。しかし、実際は、週単位、月単位の時間をかけて準備しているとのことで、少なからず驚きを感じました。

また、Youtubeでディベートの動画を数本見るきっかけにもなりました。この本を読んだお陰で、動画の内容をより深く理解することができたと思います。

現在、テレビでは、クイズ番組が花盛りです。でも、そろそろマンネリ感が漂っています。こんな折に、ディベートを放送してみたら新鮮なのではないかと思います。

 

 

 

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