ご冗談でしょう、ファインマンさん (上) | 書評

星5つ

アメリカの著名な物理学者であるリチャード・ファインマンの回想録の上巻である。

理系の僕にとっては、ファインマン物理学シリーズが岩波書店から発売されていることを大学時代から知っていたし、この本の存在も知っていた。しかし、大学の物理の教科書がファインマン物理学でなかったこともあり、ファインマンの著書に触れることはなかった。

今回、別ブログで、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」と書く話の流れになってしまったので、内容を知っておく必要があると思い、手に取ってみた。

この本には、ファインマンが如何に考え、如何に行動し、如何なる反応を周囲から得たかが書かれている。

志願して催眠術にかけられてみたり、アリの行動を観察したり、金庫を破ってみたりといった話が23話も並んでいて、老若男女、誰でも楽しむことが出来る。翻訳も自然である。それだけで、星5つに値する。

でも、この本から、更にいろいろなことが分かった。

先ず、アメリカの学者の層の厚さと親密度の高さが分かった。

ファインマンは、ショックレー、クリック、パウリ、アインシュタイン、フェルミ、オッペンハイマー、ノイマン、コンプトン、ボーア達と仕事をしている。いずれも歴史に名を残している名立たる学者たちである。ファインマンが優秀だから著名人と仕事ができたのか、それとも凡人であっても当時物理学を専門にしさえすれば著名人と仕事ができたのかは分からない。いずれにせよ、その豪華な顔触れに、ため息しか出ない。

次に、自ら手を動かすことで新たな発見があるということが分かった。アリが他のアリにメッセージを送るのに要する時間を知るためにアリを運んでみたり、人間の鼻がどれほど利くものか他人が触ったものの匂いを実際に嗅いでみたりすることなどを試みて、新たな知見を次々と得ている。ファインマンは1965年のノーベル物理学賞受賞者で、1988年に死去している。イグノーベル賞が1991年よりもっと早く創設されていればこちらも受賞できたのではないだろうか。

ところで、アメリカでは、サイエンティスト(あるいはエンジニア)とテクニシャンに分かれているという話をよく聞く。しかし、ファインマンはテクニシャン的な仕事を厭わなかった。プリンストン大学のサイクロトロンチームもテクニシャン的な仕事をしているので、どしどし研究成果が出せるという意味のことも書かれている。日本には、テクニシャンがいないと嘆く人がいる。しかし、テクニシャンがいないがために、現在、日本の技術が世界と競えているのかもしれない。

また、アメリカでは、ファーストネームやニックネームで気軽に呼び合い、上下関係があまりないということもよく聞く。しかし、ファインマンが徴兵のための身体検査を受けに行った時、医者に「ディックなんぞと呼びつけにしやがって、いったい自分を何様だと思っているんだ!」という感情を吐露している。つまり、アメリカ人も無礼な人間を嫌うことが分かるのである。

下巻はまだ入手していない。読み終わったらまた書評を書くつもりである。

R.P.ファインマン、大貫昌子[訳]:ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)、岩波現代文庫、2000、ISBN4-00-603005-3

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