以前の記事で、ダイオードの動作イメージやLTSpiceによるダイオードのDC解析について、数式を使わずに述べてきました。本記事では少しだけ数式を使って考えてみます。
電流は指数関数で増える
hspiceのマニュアル[1]によれば、正バイアス(=電流が流れるように電圧をかけた状態)におけるPN接合ダイオード(以下ダイオード)の電圧vdと電流idの関係は次のようになります。
この式から解ることは、電圧vdをかけると、指数関数的に電流idが変わるということです。
でも、このままでは複雑ですね。デフォルト値を入れてしまいましょう。
まず、ISeffは、飽和電流ISに面積効果AREAeffを乗じたパラメータです。
ISは逆方向に電圧をかけたときに流れる電流値です。デフォルト値は1E-14[A]です。
AREAeffは、細かいことを言うと、AREAとMの積です。でも、どちらのデフォルト値も1なので、積も1です。
Nはemission coefficient(放出定数)とされていますが、普通、N値と呼びます。理想値は1であり、再結合電流があるとそれより大きな値になります。ここでは理想ダイオードと仮定して、1にしてしまいましょう。
vtはthermal voltage(熱電圧)であり、で求められます。ここで、kはボルツマン定数(1.38066E-23[J/K])、tは絶対温度、qは電気素量(1.60218E-19[C])です。常温(300[K])では、25.85[mV]となるので、普通は26[mV]と近似します。
そうすると、
となります。
少しは解り易くなりましたでしょうか?
大きな逆電圧がかかる場合(vd<<0)、指数関数は0になるので、括弧内は-1となります。つまり、id=-1E-14 [A](=-1E-11[mA])となります。10[fA]という微小電流で、測定は困難です。
現実的には、何かしらのリークの経路があって、もっと大きな電流が測定されることでしょう。
次にvd=0の時は、指数関数が1になるので、括弧内は0となります。電圧をかけなければ電流が流れないという当然の結果です。
さりげなく付いている-1の重要性がお分かりになりましたでしょうか?
最後に、大きな順方向電圧がかかる場合(vd>>0)、idは指数関数的に増えていきます。つまり、26mV大きくなる毎に、電流値は2.72(=e)倍だけ増えていきます。乾電池の1.5Vに対して26mVは58分の1の値であり、かなりの微小電圧です。電流が流れ始めると、電圧が少し大きくなるだけで、電流が急増します。
さすがに、この領域では-1を無視することができます。
idとvdの関係をグラフに示します。
普通の電子工作で使うダイオードの場合、0.1~20[mA]くらいの電流を流します。その範囲では、立ち上がり領域の拡大図に示すように、順方向電圧が、0.14[V](0.6~0.74[V])くらいしか変化しません。
ダイオードはレベルシフトとして使える
ダイオードの順方向電がほぼ0.65 [V]であることを利用して、これをレベルシフトに使うことができます。レベルシフトとは、簡易的な電圧変換回路です。つまり、あなたが、1.5 [V]の電池を持っていて、もし、0.85 [V]の電源が欲しくなった場合には、電池に直列にダイオードを入れることで、目的を達成することができます。(どちらかというと、電池が弱ってきた場合であっても、グラウンドから0.65 [V]高い電圧を確保したい場合の方が多いかもしれません)
ここで、ダイオードの抵抗値を考えると(1)式をvdで微分して、
故に微分抵抗値Rは、
となります。
よって、1.5 [V]電池と直列にダイオードを入れてid=10 [mA]付近で使う場合、0.85 [V]の電圧源と直列に2.6 [Ω]の抵抗を入れた回路を等価回路として用いることができます。
まとめ
ダイオードの順方向電圧が0.6~0.7 [V]ということを知っていれば、回路を組むことができます。ただ、ダイオードの特性が指数関数的であることを知れば、非線形領域を使ったミキサなど、より工夫した使い方ができると思います。
[1] HSPICE Elements and Device Models Manual, Synopsys, 2005.
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