ダイオードとバイポーラトランジスタの動作イメージ

この記事は、ダイオードトランジスタの動作を説明します。

厳密な説明ではありません。イメージです。

「LEDという言葉は知っているけど、原理は全く分からない。でも、お客さんに明日、専門家のように説明しなければいけない」というようなあなたにお読みいただきたいです。

また、電子デバイスを扱い始めたあなたにもお読みいただきたいです。デバイスを完全なブラックボックスとして扱うのと、少しでも内部をイメージしながら扱うのとでは、完成品になったときの性能に違いが出てくると、僕は信じています。

N型半導体

半導体はダイヤモンドの仲間です。

ただ、ダイヤモンドは値段が高いので、安く手に入るシリコン(珪素)を原料として半導体を作ります。昔はゲルマニウムという素材が多く使われていました。

ダイヤモンドは硬いです。これは、共有結合という結合方法で、がっちりと結晶しているためです。

シリコンも共有結合で、ダイヤモンドと同じ型の結晶を作ることが出来ます。これを単結晶シリコンといいます。
ただ、単結晶シリコンのままでは電気を通しません

でも、リンやヒ素といった(Ⅳ族のシリコンに対して周期表の右隣りのⅤ族)にある元素を少し注入すると、共有結合に寄与しない自由電子が現れて、電気を通すようになります。これをN型半導体といいます。

注入する元素のことを不純物といいます。

N型半導体

N型半導体

N型半導体のイメージ図を書いてみました。薄い青の部分がN型半導体です。

棒人間は電子を表しています。
棒人間は左右に移動できるとします。
半導体の外側は金属です。半導体と金属の境界は、(オーミックコンタクトという仕組みで、)棒人間が自由に出入りすることができます。

電圧がかかっていない場合、マクロ的に見ると、棒人間は動きません。
ここで、N型半導体の右側に正の電圧、左側に負の電圧をかけることを考えます。

電圧をかけたときのN型半導体

電圧をかけたときのN型半導体

棒人間は負の電荷を持っていますので、負の電圧からは反発し、正の電圧に引き寄せられます。
これを分かりやすく表現するため、右に美味しいラーメン屋さんがあることにします。棒人間さんは、ラーメンに引き寄せられて、次々と右に移動します。

半導体の中に入れる棒人間の数は決まっている(この図では3人)ことにすると、一人出ると一人入ることができるといった感じです。

P型半導体

P型半導体

P型半導体

P型半導体は、シリコンの単結晶にホウ素やアルミニウムといった(Ⅳ族のシリコンに対して周期表の左隣りのⅢ族)にある元素を少し注入して作ります。

P型半導体には椅子があり、棒人間は椅子に座ることができます。

P型半導体では、棒人間の数より椅子の数の方が多いので、空いている椅子が常にあります。この空いている椅子には「ホール(正孔)」という名前が付いています。ホールは正の電荷を持っていて、電子が座ると電荷同士が打ち消し合って周囲に溶け込み、電気的には見えなくなります。これを再結合といいます。ただ、視覚的にわかりやすくするために示しています。

電圧をかけたときのP型半導体

電圧をかけたときのP型半導体

ここで、また、P型半導体の右に美味しいラーメン屋さんができた場合を考えてみます。

先頭の人が店に入るために椅子を立つと次の人がその椅子に座ります。以下、順に一つずつ前の椅子に移り、一番後ろから一人入ってきます。
つまり、現実の人気のラーメン屋さんの前のような感じです。

PN接合ダイオード

さて、PN接合を考えてみます。PN接合はP型半導体とN型半導体を接合した構成をしており、ダイオードの基本形です。

まず、単純に接続してみます。

PN接合

PN接合

P型半導体内において、N型半導体の境界付近に空いた椅子があると、N型半導体の中でP型半導体の境界付近にいた棒人間がその椅子に座ります。

棒人間が移動するたびにN型半導体は正に帯電し、P型半導体は負に帯電していきます。この結果、P型半導体全体がエレベータのカゴのような感じで上に持ちあがります。

P型半導体中の棒人間は、次第に段差を乗り越えるのが大変になってきます。最終的には、そこまで大変な思いをするくらいなら椅子に座らなくて良いと云う状態になります。このときのN型半導体の床とP型半導体の床の高さの差を、拡散電位とよびます。

ここで、上述のように、椅子に座っている棒人間は何もない状態と見なすことが出来るので、真ん中あたりの領域は立っている棒人間(電子)と空の椅子(ホール)が無い領域になります。これを空乏層(くうぼうそう)といいます。

順方向バイアス時のPN接合ダイオード

順方向バイアス時のPN接合ダイオード

さて、この状態で、右にラーメン屋さんを置きます。
すると、ラーメン屋さんの魅力によって、近い方のP型半導体の床が下に下がります。
こうすると、N型半導体からP型半導体に移る際の段差が低くなるので、棒人間がスムーズにN型半導体からP型半導体に移ることが出来ます。

こうして、棒人間が順次左から右に移動できます。電流の向きは棒人間(電子)の移動方向と逆なので、電流はP型半導体からN型半導体に、左向きに流れます。

ダイオードでは、電流が流れ込む電極(=電子が出ていく電極なので、ここではP型半導体)をアノード(anode)、電流が流れだす電極(=電子が入り込む電極なので、N型半導体)をカソード(cathode)とよびます。五十音表で「あ」から横に読むと、「あかさたな・・・」となるので、電流が流れる向きもこの読み方にしたがって「ア」ノードから「カ」ソードに流れると覚えます。
これが順方向にバイアスされたPNダイオードの動作です。バイアスするとは、「直流電圧をかける」ことを意味します。

一般的なPNダイオードが順方向で動作しているとき、カソードに対するアノードの電圧は、約0.7V高い値となります。

ちなみに、P接合中でN接合から入って来た棒人間が椅子に座る(電子とホールが結合する)とエネルギが放出されます。普通は熱になります。しかし、シリコン以外の材料を用いて、椅子に座るときのエネルギ放出値を適切に設計すると、特定の色の光を発するダイオードを作ることが出来ます。これがLEDです。LEDはLight-Emitting Diodeの略で、直訳すれば、「光を発しているダイオード」です。LEDの順方向電圧は約1.6Vです。

逆バイアスにおけるPN接合ダイオード

次に、ラーメン屋さんが左にある場合を考えてみます。

逆バイアス時のPN接合ダイオード

逆バイアス時のPN接合ダイオード

この場合、P型半導体の中で椅子に座っている棒人間にとって、N型半導体への段差が低くなります。しかし、椅子を離れるほど魅力的なことではありません。よって、P型半導体からN型半導体の中に棒人間が入ることがありません。また、そのため、P型半導体に新たな棒人間が入ることができませんし、N型半導体から外に棒人間が出ることもできません。つまり、電流値はほぼ0になります。

ただ、すごく美味しいラーメン屋さんができた時に、棒人間が椅子を立ってしまうように設計することもできます。このダイオードでは、一旦席を立った棒人間は、隣の棒人間が椅子から立つことを促すように働きます。つまり、一人が二人、二人が四人のように、席を立つ人が雪崩のように増えます。これをアバランシェダイオード(なだれ降伏ダイオード)といいます。アバランシェ動作が生じるように設計されたダイオードの中に、ツェナダイオードがあります。ツェナダイオードは、ラーメンがある美味しさに達した時に突然なだれ降伏を起こすことに例えることができ、定電圧を作る時に使われます。

フォトダイオード

フォトダイオード

逆バイアスして電流が流れていない状態で、外から刺激を与えたときに、椅子に座っている棒人間を立たせるように設計したダイオードもあります。

このダイオードの接合部に適当な波長の光を当てると、棒人間を椅子から立たせることができます。すると棒人間は床の段差に応じてP型半導体からN型半導体に移動します。これにより、ダイオード全体に電流が流れます。この動作は高速であり、光通信の受光部に使われるフォトダイオードもこの仕組みで動作しています。

また、逆バイアスをかけない状態で、光を当てたときに椅子に座っている電子を立たせるように設計されたダイオードは、太陽電池として使われています。

バイポーラトランジスタ

では、いよいよバイポーラランジスタの動作原理について説明します。

ラーメン屋さんで説明するのは無謀な試みですので、話半分に聞いてください。
先ず、バイポーラトランジスタにはNPN型PNP型があります。NPN型の動作の主体は電子、PNP型の動作の主体はホールです。電子の方がホールより高速に動作します。普通に歩くのと、空いた椅子に次々と座っていくのとでは、普通に歩く方が早いことからもイメージできると思います。
高速に動作することが出来るNPN型の方がよく使われますので、本記事はNPN型を取り上げます。PNP型については、以下の説明において、電子とホールを入れ替えてお考えください。

NPN型トランジスタ

NPN型トランジスタ

さて、NPN型の各領域は、エミッタ、ベース、コレクタと呼ばれます。
エミッタとコレクタがN型半導体、ベースがP型半導体です。

エミッタとベースのPN接合は、順バイアスします。そうすると、図の一番下に示すように、ベースの中では、エミッタから入ってきた電子が、前方の空いた椅子に次々に座っていくという動作をして、ベースからラーメン屋に入ります。これをベース電流といいます。都合により、この図は上から見た図です。

図の一番下のエミッタには、椅子がいくつかありますが、これについては、説明を少々お待ち下さい。

さて、実際のトランジスタは、不純物濃度を調節して、エミッタに存在する電子の数が、ベースに存在する椅子の数より数桁多いように作ります。
そうすると、おとなしく椅子をつかって移動する棒人間の他にも、椅子に座ろうとする棒人間が、エミッタからベースに多量に入り込んできます。しかし、椅子の数が少ないので、ほとんどの棒人間は、空いている椅子を見つけられないまま、後から来る棒人間のため、コレクタに押し出されてしまいます。
ここで、コレクタの先にはベースのラーメン屋さんよりさらに美味しいラーメン屋さんを置いておきます。この結果、コレクタは下り坂になるような形になります。そのため、一旦コレクタに押し出された電子は、後戻りすることができず、外に出てきます。これがコレクタ電流です。

この動作を上から見た様子を、図の真ん中に、横から見た様子を図の一番上に示しました。

図の真ん中の動作と下の動作は、実際の素子の中では入り混じります。しかし、そのままではうまく表現出来ないので、整理して示したことをご理解ください。

ところで、先送りにしていたエミッタに存在する椅子についての説明です。
エミッタからそのまま電子が流れてきてしまうように、実はベースからエミッタに流れてしまうホールもあります。図ではそれを示しています。

バイポーラトランジスタは、このように、電子とホールの2種が増幅に寄与するので、バイ(2の意味)ポーラ(極)と呼ばれます。

ちなみに、電子工作に使われるようなバイポーラトランジスタでは、ベースから出てくる電子とコレクタから出てくる電子の数は、コレクタから出てくる方が100倍くらい多い値になります。この値を電流増幅率とか、β(ベータ)とか\bf h_{FE}(エイチエフイー)とよびます。

まとめ

本記事では、かなり大ざっぱな説明をしました。

しかし、普通に回路を組む人の90%くらいは、本記事で説明したようなイメージさえ持っていません。

そのような人は、バイポーラトランジスタは、原理は分からないものの、ベース電流を増幅してコレクタ電流にする増幅器だと思っていることでしょう。でも、そうではありません。
バイポーラトランジスタの動作の本質は、電圧(≒ラーメン屋さん)の存在によって、エネルギのレベル(≒半導体の床の高さ)が変わり、それによって電子やホールが移動することです。
したがって、小信号等価回路では、トランジスタを電「圧」制御型電流源でモデリングします。
ベース電流とコレクタ電流の値の比率は、ベースに存在するホールの数(空の椅子)とエミッタに存在する電子(棒人間)の数の比に起因する副次的なものです。図ではうまく示していませんが、エミッタに存在する電子の濃度とベースに存在する濃度は2桁くらい違うのです。

また、トランジスタの図を見ると、エミッタにどんどん電子を押し込んでもそのままコレクタから出てくるだけなので、低インピーダンスであることがイメージされ、電圧源として使えるということが理解できます。逆に、コレクタは、一定量の電子がスロープを下って来るので、この流れをコレクタ側で防いだり、増量させたりすることができません。よって、ハイインピーダンスであることがイメージされ、電流源として使えることが理解できます。

本記事は半導体の動作をできるだけ簡単にイメージできることを目的としました。更に、真髄を理解するためには、やはり、エネルギバンド図を用いた考え方が必要です。

興味のある方は、「竹内淳:高校数学でわかる半導体の原理、ブルーバックスB1545、講談社、ISBN978-4-06-257545-4」という名著があるので、そちらをお読みください。

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