理想的な電圧源は、内部インピーダンスが0です。
また、理想的な電流源は、内部インピーダンスが無限大です。
所望の値の電圧源や電流源を作るにはどうしたらいいのでしょうか?
プロローグ
電子回路のことがほとんど分からなかったころ、差動回路だったか、DAコンバータだったか、ともかく、定電流源を作る必要があって、途方に暮れていたことがありました。師匠に尋ねると、手近にあった紙を取り、10秒ほどで、「ほらこうして作るんだよ」と言って渡してくれた紙にこんな感じの絵が描いてありました。(当時の抵抗はもちろんギザギザでしたが・・・)
結構簡単な回路で電流源ができてしまうことに驚くと同時に、アナログ回路を組むためには、このような回路構成をいくつも知っておく必要があるんだろうなと感じました。
なお、vccは、主としてコレクタ側で使用する電源電圧を示す名称です。
定電流回路
先の回路は、なぜ電流源として動作するのでしょうか?
以前の記事で、NPNトランジスタはこのような等価回路で表されることを説明しました。
これを先ほどの回路に当てはめてみます。
ほら、出力から見たら吸い込み型の電流源ではないですか。
電流源のインピーダンスは無限大なので、電流源の左下にある抵抗やダイオードのインピーダンスは見えません。よって、電流源のできあがりです。
でも、概要だけだとつまらないので、少し具体的に約10 mAの電流源を設計してみましょう。電源(Vcc)は+5 V、βFは100とします。
吸い込む電流値はβFibに等しいので、βFib = 10 [mA]です。
R3には電流が流れるので、電圧降下が発生します。これはグラウンドレベルから電源電圧までの0 V~5 Vの範囲に入るはずです。
でも電圧降下を0 Vに設計すると、Vbeを安定に保つことが困難です。Vbeが安定しないと、ibが安定せず、出力となるβFibも安定しません。
R3の電圧降下を5 Vと仮定すると、Vbe > 0になるはずなので、ベース電圧は電源電圧を超えてしまいます。よって、実現できません。
そこで、適当な切りの良い値として、ここでは、R3の電圧降下を1 Vとします。
そうすると、R3は電圧降下を出力電流で割ることにより、1 [V] / 10 [mA] = 100 [Ω]となります。ibは、次に示すように出力電流に比べて小さい値なので、無視して計算します。
そのibは、ib = βFib / βF = 10 [mA] / 100=0.1 [mA]となります。では、このときVbeはどのような値になるでしょう?
こちらの記事で議論したとき、動作しているトランジスタのベース電流は近似的に
でした。この式にデフォルト値であるIS = 1.0E-16 [A]、BF = 100、vt ≒ 26 [mV]を入れてグラフを書いてみます。
そうすると、vbe = 0.83 [V]くらいでib = 0.1 [mA]になります。
よって、ベース電圧を1.83 Vにする必要があります。これをR1とR2で作るわけです。
ここで、R1やR2を大きな値の抵抗で作ると、0.1 mAのibが無視できない大きさになって、設計が難しくなります。逆に小さな抵抗で作ると、大きな電流がR1とR2に流れて無駄な電力が発生します。そこで、0.1 mAの10倍の1 mA程度を流すことにすると、R1 + R2は、5 [V] ÷ 1 [mA] = 5000 [Ω]となります。
E24系列から、R1 + R2 = 5000、R1 : R2 = (5-1.83) : 1.83をほぼ満たすような抵抗を見つけると、3.0 kΩと1.8 kΩとなりました。
LTSpiceでシミュレーションするために、回路図を入力します。
電流源のインピーダンスの様子を見るために、コレクタ電圧V2を2 V~10 Vの範囲で変えてみます。
ここでは出力であるコレクタ電流のプロットをしました。
コレクタの電圧を変えても9.3 mA付近で一定値になっています。つまり、電流源のインピーダンスは無限大ということになります。ただ、実物ではコレクタ電流がvceに依存するアーリ電圧という特性があったりして、こんなに一定であるとは限りません。
シミュレーションの電流値は設計値の10 mAより少し小さい値になりました。もし、正確に10 mAに合わせたいのであれば、R1、R2、R3のいずれかの抵抗のところにトリマ(可変抵抗)を用いて合わせることになります。
定電圧回路
次に定電圧回路を設計してみましょう。
定電圧源は、使用する電流の量が変わっても、同じ電圧を示す電源です。出力はエミッタからになります。
トランジスタの等価回路を再掲します。
ここで、ベースをある一定電圧に固定したと仮定し、エミッタから取り出す電流を少し増やすことを考えます。
このとき、vbeが少し大きくなります。それにつれて、ibも大きくなります。
すると、ibがβF 倍されたicがコレクタからエミッタに流れます。つまり、ほとんどの電流がコレクタから供給されることにより、エミッタの電圧はほとんど変わらないでいられることになります。すなわち、これが定電圧源の原理です。
回路構成としてはこんな感じになります。
では、5 Vの電源から10 mA程度を使う3.3 Vの電源を作ってみることにします。
出力は3.3 V、vbeは約0.83 Vですから、ベース電圧は4.13 Vです。そこで、電流源を設計したときと同様に、E24系列からR1 + R2 = 5000、R1 : R2 = (5-4.13) : 4.13をほぼ満たす抵抗を見つけます。ここでは、910 Ωと4.3 kΩにしました。
シミュレーション用の回路図を示します。エミッタの電圧が出力となります。
出力電圧の電流依存性を調べるため、出力に電流源を接続し、0 mA~20 mAの範囲で変化させてみます。
結果は、10 mAのとき3.22 Vでした。
電圧値を正確に合わせたいのであれば、R1又はR2にトリマを使うことになります。
なお、この回路では出力電流を多くすると電源電圧が低くなるという現象があります。ある電流値で3.3 Vに合わせることができても、電流値が変化すると電圧値が変化してしまいます。つまり、電源のインピーダンスがゼロではなくて、理想的な定電圧源とは言えません。
トランジスタを2段重ねるダーリントン接続という構成にすればこの電圧変化を改善することができます。でも、電源電圧が5 Vという縛りがあると、ダーリントン接続は困難です。消費電流が増えるのを覚悟で、R1とR2を1桁小さい値にするような変更をすれば、ibが変化してもベース電圧の変化が少なくなり、出力電圧値の変化をかなり抑えることができます。それでも満足できない場合は、オペアンプを用いて、ベース電圧を制御するフィードバック回路を設計することになります。
まとめ
本記事では定電流源と定電圧源を設計しました。
シミュレーションで用いたVbeの値は0.83 Vでした。実際のトランジスタでは0.7 Vくらいのイメージがあるので、少し大きな値に思えます。
それはともかくとして、トランジスタが動作しているときのVbeはあまり大きく変わらないので、手計算では、この値を0.7 Vとか0.8 Vに固定して計算してしまいます。
このような近似誤差やシミュレーションモデルの誤差により、設計と実際では微妙に値がずれます。したがって、精密に合わせたい場合には、トリマを入れたり、フィードバック回路を用いるなどして合わせます。
なお、本記事では、NPNトランジスタで設計し、「吸い込み型の電流源」と「正電圧の電圧源」を作りました。「吐き出し型の電流源」と「負電圧の電圧源」はPNPトランジスタを使って同様に設計することができます。
ちなみに、僕がよく使っているトランジスタは、NPN、PNPがそれぞれ、2SC1815、2SA1015です。もともとは東芝が作っていましたが、生産終了してしまい、セカンドソース品が販売されています。
本記事では等価回路を使って説明しました。
でも、動作イメージが湧きませんね。本当は、次のようなイメージが持てるような記事を書きたいと考えていました。
定電流源は、滝壺の高さを変化させても滝の水量が変わらないというイメージです。
定電圧源は、滝の上にいて、付近の川からいくら水を流し込んでも水面の高さがほとんど変わらないというイメージです。
なんとなく意図しているところが伝わりますでしょうか?
コメント