ナイキスト線図とは何?Excelで作成してみよう

ナイキスト線図は、伝達関数を複素平面にプロットしたグラフです。制御システムの安定性を把握するために使用します。
本記事は、移相型発振器の伝達関数を使ってナイキスト線図を書きます。

安定性

安定とは何でしょうか?

発振しないことです。
では、発振するとはどういうことでしょうか?

ハウリング

ハウリング

僕はいつもこれを思い浮かべます。ハウリングです。

マイクが雑音を拾い、それをアンプが増幅し、スピーカが出力します。それをまた、マイクが拾って・・・ピーっという音が発生します。
最近、Zoom会議などで、しょっちゅうハウリングを聞きます。

単純化したブロック図

単純化したブロック図

単純化したブロック図がこちらです。

あるゲインブロックがあり、その出力のうち、特定の周波数成分同相でフィードバックされたとき、そのループゲインが1以上なら不安定になり発振します。

ただ、僕が制御工学を学び始めたとき、ループゲインの概念が理解できませんでした。

図のように、一周回った図の状態のままで考えていて、何をどう扱えば安定性が議論できるのか、途方に暮れていました。

ループを切ったブロック図

ループを切ったブロック図

釈迦に説法でしょうが、ループをどこかで切ればいいんです。そして、矢印の根元側の端を入力、矢印の先の側の端を出力と名付けて、出力の振幅と入力の振幅の比を取れば、それがループゲインです。一巡伝達関数とも言います。

分ってしまえば何でもありませんが、名付け方が悪いと思います。ループ切断ゲインとか、U字ブロックゲインとか名付けてくれれば、悩むことが無かったのにな。

移相型発振器

移相型発振器

移相型発振器

本記事では、LPF型の移相型発振器の伝達関数を使ってナイキスト線図を書きます。

この一巡伝達関数は以下に示す記事で既に求めていて、こちらになります。

(1)   \begin{equation*} G=\frac{K}{1-5\omega^2C^2R^2+j\left(6\omega CR-\omega^3C^3R^3\right)} \end{equation*}

移相型発振器の一巡伝達関数の導き方
移相型発振器の一巡伝達関数を導きます。 移相型発振器 移相型発振器は、反転増幅器の出力をRCのネットワークで位相を変え、反転増幅器に戻す型の発振器です。 位相は反転増幅器で180°、RCのネットワークで180°変えることに...

せっかくなので、具体的に1kHzの発振器を設計して、そのパラメータを使うことにしましょう。

まず、「特定の周波数成分が同相でフィードバックされる」ためには、(1)が実数である必要があります。(1)の複素成分は、分母だけにあって、それが0であれば、実数になるので、

(2)   \begin{equation*} 6\omega CR-\omega^3C^3R^3=0 \end{equation*}

が位相の発振条件です。

ここで、発振器に使うコンデンサですが、容量の電圧依存性の少なそうなフィルムコンデンサを使うことにしましょう。すると、0.1μFくらいが、一般的な容量でしょうか。

すると、(2)から、

(3)   \begin{equation*} 6\omega CR-\omega^3C^3R^3=0 \end{equation*}

(4)   \begin{equation*} 6=\omega^2C^2R^2 \end{equation*}

(5)   \begin{equation*} R=\frac{\sqrt 6}{\omega C}=\frac{\sqrt 6}{2\pi fC} \end{equation*}

(6)   \begin{equation*} R=\frac{\sqrt 6}{2\pi \cdot 1000 \cdot 0.1E-6}\cong3898.5 \end{equation*}

となります。抵抗値をE24系列から選ぶとすると、R=3.9 kΩとなります。

次に、ゲインの条件を求めます。
ここまで来て、後出しじゃんけんのようですみませんが、(1)の伝達関数は、移相ネットワークとアンプの間にある反転記号を抜いた部分に相当しています。よって、(1)の符号を逆にした伝達関数のゲインが1より大きいことがゲインの条件になります。

(7)   \begin{equation*} -G>1 \end{equation*}

(8)   \begin{equation*} \frac{-K}{1-5\omega^2C^2R^2+j\left(6\omega CR-\omega^3C^3R^3\right)}>1 \end{equation*}

ここで(4)を使って、

(9)   \begin{equation*} \frac{-K}{1-5\cdot6}>1 \end{equation*}

(10)   \begin{equation*} K>29 \end{equation*}

となります。よって、K>29であればいいことになります。
ここでは、ナイキスト線図を書いたときに不安定さが明確に判るように、K=40にすることにします。

パラメータが、K=40、C=0.1 μF、R=3.9 kΩと定まったので、早速ナイキスト線図を書いてみましょう。

ナイキスト線図

Excelシート

Excelシート(クリックすると拡大します)

まず、A1からE1にカラム名として、「f [Hz]」「ωCR」「G」「Re(G)」「Im(G)」とでも入力しましょう。
ωCRは実数で、あらかじめ計算しておけば、ゲインGの算出が楽です。ωCRとGは無次元量です。
Re(G)とIm(G)は、ゲインの実数部と虚数部を表します。

次に、J1からJ3に、それぞれ「K」「R [Ω]」「C [F]」と入力しましょう。また、K1からK3に40、3900、0.1E-6と入力します。これらは、順に、ゲイン、抵抗値、容量値を示します。

さらに、K1を選んだ状態で、「数式」タブ→「名前の管理」→「新規作成」をクリックします。名前欄にKと入力し、「OK」を押すと、=Sheet1!$K$1の参照範囲に「K」という名前が付きます。

同様に、K2とK3にもそれぞれ「_R」「_C」という名前を付けてください。(セルのアドレスをRやCで表すため、アンダスコア等が無いと名前として受け付けてくれません)

次に、A2「=10^((ROW()-2)/10)」と入力し、Enterを押すと「1」と表示されます。このA2をコピーし、A3からA42までを選択して貼り付けて下さい。すると、10000までの等比数列が得られます。このA列全体には「f」という名前を付けましょう。

B2はωCRなので、「=2*PI()*f*_C*_R」と入力します。これもコピーして、B3からB42まで貼り付けましょう。B列全体には、「ωCR」という名前を付けます。

C2には、「=IMDIV(COMPLEX(K,0),COMPLEX(1-5*ωCR^2,6*ωCR-ωCR^3))」と入力します。複素数の計算で複雑ではあるものの、(1)の伝達関数を表していることが分かるのではないでしょうか?

D2には、「=IMREAL(C2)」と入力します。セルのアドレスを式に使うので、本来はあまりやりたくありません。でも、これが一番シンプルです。

どうしても名前にこだわりたい人は、C2をコピーして、C3からC42まで貼り付けて、C列全体にGと名前を付けます。ついで、D2に「=IMREAL(INDEX(G,ROW()))」と入力します。ほら、かえって分かり難いでしょう?

E2には、「=IMAGINARY(C2)」と入力します。「=IMAGINARY(INDEX(G,ROW()))」でも同じ値が得られます。

C2とD2を選んだ状態でコピーし、C3:D42に貼り付けます。これで数値は出揃いました。

ナイキスト線図を書くための数値

ナイキスト線図を書くための数値

では、Re(G)(D列)とIm(G)(E列)をそれぞれ横軸と縦軸にして、散布図の平滑線を書いてみてください。

ナイキスト線図(小縮尺)

ナイキスト線図(小縮尺)

これがナイキスト線図です。
ナイキスト線図は、横軸と縦軸が等しい縮尺のガウス平面に書きます。

ところで、これの何を見ると安定性が分かるのでしょうか?
実は、こんなに小縮尺(地図用語?)のグラフでは、安定性は分かりません。

ナイキスト線図(大縮尺)

ナイキスト線図(大縮尺)

このような大縮尺のグラフにして、(-1, 0)付近を見るのです。

プロットが実軸を横切るとき、一巡伝達関数の位相が0になります。この横切る地点が負の領域であれば、位相は180°ということです。一巡伝達関数はブロック図でループを切った時の関数であり、実運用時には負帰還をかけて使います。負帰還をかけるということは、位相を180°反転させて接続するということです。この結果、位相は180°+180°=360°回って、発振の位相条件を満たすことになります。

あとは、ゲインの条件によって、安定性が決まることになります。この図では、原点からの絶対値が1よりも大きい地点で交差しています。すなわち、(-1, 0)より左側で実軸と交差しているので、ゲインの発振条件も満たします

よって、この系は不安定であることが明らかであり、発振します。

Excelシートに戻って、K1の値を29未満の値にすると、プロットが(-1, 0)の右側で交差し、安定であることが確かめられますので、是非試してみてください。

ボード線図

以前書いたボード線図の記事では、安定性のことについて触れていませんでした。そこで、ここで改めて、ボード線図を用いて安定性を調べたいと思います。

実は、ボード線図を書くためにF~I列をあけていました。

ボード線図用の式

ボード線図用の式

先ず、F1~I1には、「ゲイン [dB]」「ATAN」「Offset」「位相 [°]」と入力しましょう。

次いで、F2には「=20*LOG(IMABS(C2))」G2には「=DEGREES(ATAN2(ReG,ImG))」と入力します。さらに、これらをコピーし、F3:G42にペーストしましょう。

H2には「0」H3には「=IF(ABS(G3-G2)<180,H2,H2+SIGN(G2)*360)」と入力し、H3をコピーしてH4:H42にペーストします。

さらに、G列全体とH列全体にそれぞれ「ATAN」と「Offset」と名前を付けてI2「=ATAN+Offset」を入力してI3:I42にコピーします。

3列も使って位相の計算をする理由は、アークタンジェント(ATAN2)関数の値域が(-180°~180°]であり、そのまま用いると、安定性を議論する領域付近で不連続になってしまうからです。

ボード線図

ボード線図

横軸をf [Hz]、縦軸の第1軸を「ゲイン [dB]」、縦軸の第2軸を「位相 [°]」としてグラフを書けば、ボード線図の出来上がりです。

ゲイン余裕と位相余裕は次のようにして考えます。

ゲイン余裕は、位相の発振条件(すなわち-180°)を満たす周波数における、発振のしにくさの指標です。ゲインが1より小さければ小さいほど発振はしにくく、安定です。ゲインをdBで表せば、負のdB値が大きければ大きいほど安定です。そこで符号を逆に考えて、ゲインが-6dBであれば、ゲイン余裕は6dBあると表現します。

今回のボード線図では、ほぼ設計通りの1 kHzで位相が-180°になっています。このときのゲインは+2.8dBです。発振器を作ったので、当然ながら正のdB値になっています。したがって、語感はしっくりこないものの、ゲイン余裕は-2.8dBということになります。

次に、位相余裕は、ゲインの発振条件が限界(すなわち0dB)のときの周波数で考えます。
個の周波数で、位相が-180°に達していなければ、安定ということになります。

今回は、約1162Hzでゲインが0dBとなり、その時の位相は-188.6°でした。つまり、8.6°回り過ぎていて、安定ではないということになります。こちらも、安定である方を正とみるので、位相余裕は-8.6°ということになります。

まとめ

ナイキスト線図の書き方を示しました。

ナイキスト線図は、安定か不安定かの判定感度は高そうです。ただ、実軸を交差するときの周波数が分からないことが弱点です。そのため、発振器の発振周波数を確認する作業には使えません。

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