パワーディバイダとパワースプリッタの違い

パワーディバイダパワースプリッタって、何が違うのでしょう?

文献※)には、

簡単なパワーの分割と結合には3つの抵抗で構成されたパワー・ディバイダの使用を推奨します。比測定とレベリングには2つの抵抗で構成されたパワー・スプリッタが適しています。

とあります。例もいくつか示されています。僕はおそらく、この記事を100回は精読したことでしょう。でも、全く理解できませんでした。

そこで、自分で具体的数値を用いて考察したところ、DUTがインピーダンス整合していない場合のレベリングには、パワースプリッタを使うべきだということは判りました。本記事は、そのことについて述べます。


※)Agilent Technologies: パワー・ディバイダとパワー・スプリッタのアプリケーションでの違い、Application Note、5938-6699JAJP、November 13、2007.

パワーディバイダとパワースプリッタの抵抗値の計算

まずは、パワーディバイダとパワースプリッタの抵抗値を計算してみます。

パワーディバイダの抵抗値

パワーディバイダ

パワーディバイダ

パワーディバイダは、3つの等しい値の抵抗で回転対称的に構成されます。任意の2つのポートをZ0で終端したとき、残りのポートから見たインピーダンスはZ0となります。

これを式で表すと、

    \begin{eqnarray*} Z_0 &=& R+\left(R+Z0\right)//\left(R+Z_0\right)\\ &=& R+\frac{\left(R+Z0\right)\left(R+Z_0\right)}{2\left(R+Z_0\right)}\\ &=& \frac{3}{2}R+\frac{1}{2}Z_0\\ \therefore Z_0 &=& 3R\\ \therefore R &=& \frac{Z_0}{3} \end{eqnarray*}

となります。

よって、50Ω系では、

    $$ R=\frac{50}{3}\cong16.7\,\left[\Omega\right] $$

です。

パワーディバイダは、どのポートでもマッチングが取れており、全ての分割や結合に使えるように思えます。

パワースプリッタの抵抗値

パワースプリッタは、2つの等しい値の抵抗で構成されます。2つの抵抗は、出力ポートであるポート2、ポート3にそれぞれ配置されます。出力ポートをZ0で終端したとき、入力ポートであるポート1から見たインピーダンスはZ0となります。

これを式で表すと、

    \begin{eqnarray*} Z_0 &=& \left(R+Z_0\right)//\left(R+Z_0\right) =\frac{1}{2}\left(R+Z_0\right)\\ \therefore R &=& Z_0 \end{eqnarray*}

となります。よって、50Ω系では、

    $$ R=50\,\left[\Omega\right] $$

となります。

パワースプリッタはポート1ではマッチングが取れます。しかし、ポート2やポート3からみたインピーダンスZは特性インピーダンスZ0と一致しません。念のために確かめてみましょう。

    \begin{eqnarray*} Z &=& \left\{Z_0//\left(R+Z_0\right)\right\}+R\\ &=& \left(Z_0//2Z_0\right)+Z_0\\ &=& \frac{2Z_0^2}{3Z_0}+Z_0\\ &=& \frac{5}{3}Z_0 \end{eqnarray*}

確かに、一致していません。50 Ω系なら、83.3 Ωになります。高速/高周波回路でマッチングが取れないデバイスを使うなんて常識外れにさえ思えます。

高速/高周波回路における信号の送受信方法

ここで、高速/高周波回路における信号の送受信方法を確認しておきます。

高速/高周波回路の信号送受信方法

高速/高周波回路の信号送受信方法

信号源の振幅は、受信側で受け取りたい振幅の2倍にします。すなわち、1 Vppを受信したいのであれば、2 Vppとします。

伝送線路の特性インピーダンスをZ0とした場合、送信側のインピーダンス(信号源インピーダンス)もZ0とします。また、受信側のインピーダンスもZ0とします。こうすることで、信号振幅が半分になるものの、受信端では反射が発生せず、信号電力を最大効率で受信することができます。また、伝送経路にインピーダンス不整合があって反射波が発生したとしても、送信側のインピーダンスが吸収し、多重反射が抑えられます。

パワーディバイダとパワースプリッタを使ってみる

では、パワーディバイダとパワースプリッタを使って信号を分けてみましょう。

信号源の振幅は4 Vppとします。

50Ω系でパワーディバイダを使ってみる

50Ω系でパワーディバイダを使ってみる

パワーディバイダを使った時の各点の振幅は、図に示すように、ポート1が2 Vpp、ポート2、3が1 Vppとなりました。パワーディバイダの挿入損失は6dBであり、ここでも振幅が半分になりますので、想定通りです。

次にパワースプリッタです。

50Ω系でパワースプリッタを使ってみる

50Ω系でパワースプリッタを使ってみる

パワースプリッタでも、ポート1が2 Vpp、ポート2、3が1 Vppとなりました。パワースプリッタの挿入損失も6dBです。

どちらを使っても結果は同じです。どちらを使ってもいいのなら、心理的には、マッチングが取れるパワーディバイダを使いたくなります。

インピーダンス整合していない回路の特性を測る場合

では、ここで、あなたや私が作った自作回路の特性を測ることを考えてみます。

ただし、自作回路の入力インピーダンスは、特性インピーダンスの50 Ωに一生懸命近づけて作ったつもりだったのに、25 Ωになってしまったとします。

入力インピーダンスが25 Ωの場合の電圧振幅

入力インピーダンスが25 Ωの場合の電圧振幅

このとき、正確に2 Vppを出力できる信号源を使えたとすると、自作回路の入力電圧は、

    $$ v_{in}=\frac{25}{50+25}2=0.67\,\left[V_{pp}\right] $$

となり、この状態で測定することが適正です。

さて、ここで、信号源に制約を与えます。すなわち、信号源は、振幅が可変ではあるものの、正確な出力値をあらかじめ設定できない仕様だとします。その代わり、信号の振幅を正確に測定できる測定器(パワーメータ、スペクトラムアナライザ等)を測定に使えることとします。

すると、信号源の出力を2分して、片方を自作回路に入力し、もう片方を測定器に入れてレベルを調整しながら測定することになることでしょう。この測定方法に、まずは、パワーディバイダを使ってみます。

パワーディバイダで自作回路を測定する

パワーディバイダで自作回路を測定する

計算の過程は省きますが、パワーディバイダでは、信号源の振幅を4.8 Vppとしたときに、測定器に1 Vppが入力されます。そのとき、自作回路には0.8 Vppが入力されます。本来なら0.67 Vppが入力されるべきはずなのに、2割も大きい値となってしまい、正確な測定ができていません。

次にパワーディバイダを使ってみます。

パワースプリッタで自作回路を測定する

パワースプリッタで自作回路を測定する

やはり、計算の過程は省きますが、信号源を4.33 Vppにしたときに、測定器に1 Vppが入力されます。そのとき、自作回路には本来の0.67 Vppが入力されています。つまり、パワースプリッタを使うことにより、適正な測定ができます。つまり、このようなレベリング測定時には、パワースプリッタを使わなくてはなりません。

まとめ

インピーダンスマッチングが悪い場合の具体的数値例を挙げて、レベリングにはパワースプリッタを使うべきであることを示しました。

インピーダンスが整合している場合と、整合していない場合の電圧振幅を比較すると、分岐点(図中の黒丸)の振幅は一致していることが分かります。すなわち、パワーディバイダでは1.33 Vppであり、パワースプリッタでは2 Vppの地点です。つまり、手作業になるかもしれませんが、測定器で測定される振幅値が所望の値になるようにフィードバックがかかり、この分岐点が低インピーダンスの電圧源になったように見えます。

そう考えると、パワーディバイダを用いた場合は、振幅が1.33 Vppで内部インピーダンスが16.7 Ωの電圧源を用いて自作回路を測定していることと等価になります。つまり、本来の測定と全く違っています。

パワースプリッタの場合でも同様に考えると、振幅が2 Vppで出力インピーダンスが50 Ωの電圧源で自作回路を測定していることと等価です。すなわち、所望の測定系になっています。

結合など、他の応用例については、深い検討をしていません。ただ、理解できない場合には、理想から外れたインピーダンスを用いた具体的数値例を使って検討すると、理解できる可能性があることが分かりました。

 

 

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