tan δ が大きくなると損失が大きくなる理由

tanδは日本語で誘電正接といいます。
その名が示すように、比誘電率におけるタンジェントの値です。

比誘電率の虚部が損失を発生させる

損失が本記事のテーマになります。そこで、まず初めに、損失を発生する抵抗について考察します。

抵抗値をRとします。また、抵抗にかける電圧をvとすると、電流iは、

    $$ i=\frac{v}{R} $$

です。

よって、電力pは、

    $$ p=vi=\frac{v^2}{R} $$

です。ここで注意したいことは、電力が正の実数であることです。
電力は、全て熱になって損失となります。

次に、理想的なコンデンサを考えてみます。容量はCとします。

角周波数ωにおけるインピーダンスは、1/j\omega Cです。

交流電圧vをかけると、電流iは、

    $$ i=v\cdot j\omega C $$

となりますので、電力は、

(1)   \begin{equation*} p=vi=j\omega Cv^2 \end{equation**}

となります。

ここで、注意したいことは、電力が虚数であることです。

電力が正の実数なら電力が消費される抵抗です。負の実数なら電力が発生する電源です。電力が虚数ということは、有効電力が増えも減りもしない、無損失のリアクタンスであることを意味します。

次に、コンデンサについて、もう少し詳しく考えてみます。
平行平板コンデンサの容量は、よく知られているように、次の式で表されます。

    $$ C=\epsilon_0\epsilon_r\frac{S}{d} $$

ここで、ε0は真空の誘電率、εrは比誘電率、Sは電極の面積、dは電極間の距離です。

比誘電率εrは、空気の誘電率は1.00059、水の誘電率は80.4などと、実数で表されることが一般的です。

複素比誘電率

複素比誘電率

でも、実際の物質の比誘電率は複素数なんです。実部を\epsilon_r^{\prime}、虚部を\epsilon_r^{\prime\prime}とすると、

    $$ \epsilon_r=\epsilon_r^{\prime}-j\epsilon_r^{\prime\prime} $$

で表すことができます。ただし、\epsilon_r^{\prime}>0\epsilon_r^{\prime\prime}>0です。虚部が負になる理由は、後ほど説明します。

この比誘電率を使ってコンデンサの容量を表すと、

    $$ C=\epsilon_0\left(\epsilon_r^{\prime}-j\epsilon_r^{\prime\prime}\right)\frac{S}{d} $$

となります。これを(1)に代入すると電力pは、

    \begin{eqnarray*} p&=&j\omega Cv^{2}=j\omega \epsilon_0\left(\epsilon_r^{\prime}-j\epsilon_r^{\prime\prime}\right)\frac{S}{d}v^{2}\\ &=&j\omega \epsilon_0\epsilon_r^{\prime}\frac{S}{d}v^{2}+\omega \epsilon_0\epsilon_r^{\prime\prime}\frac{S}{d}v^{2} \end{eqnarray*}

となります。ここで、第1項目は、虚数ですので無損失です。でも、第2項目は、正の実数ですので損失が発生します。つまり、比誘電率の虚部は損失を発生させます

tanδ

\epsilon_r^{\prime\prime}\epsilon_r^{\prime}の比を取ると、正接の関係になるので、これをtanδとして、

    $$ \tan \delta=\frac{\epsilon_r^{\prime\prime}}{\epsilon_r^{\prime}} $$

とします。虚部が負の数なので、本当はtanδの値も負にしたいところですが、慣例に従うこととします。

tanδの用途

僕は、アルミナ基板の上にコプレーナウェーブガイド(CPW)という伝送線路を作成するときに、カタログに載っているtanδの値をシミュレータに入力し、損失を推定しました。

基板の種類を選べるのであれば、コストや納期が許す限り、tanδの小さい方を選んだ方が、性能は良くなることでしょう。

僕の作った伝送線路には寄生要素がいろいろあって、tanδの損失がドミナントではなかった覚えがあります。

比誘電率の虚部が負になる理由

電磁気学の分野では、電界E電束密度Dという2つの物理量があります。電磁気学では、これらの間に、

(2)   \begin{equation*} D=\epsilon_0\epsilon_rE \end{equation**}

という関係があると習います。

これら2つの物理量の区別がつきますでしょうか?僕にはほとんど区別がつきません。でも、説明しないといけませんね。困った時には単位に注目すると理解の糸口がつかめる場合があります。

Eの単位はV/mです。コンデンサでは、2つの電極間に電圧がかかれば間髪を入れず、この物理量が発生します。誘電体の有無も関係ありません。

一方、電束密度の単位は\bf C/m^2です。つまり、単位面積当たりの電荷量です。コンデンサの電極間に挟まれた誘電体に電圧がかかり、分極が発生すれば、それは電荷と等価です。分極の状態が時間と共に変化するのであれば、電束密度は時変な量になるはずです。常識的に考えれば、電束密度の挙動は電界の変化に遅れることでしょう。

よって、誘電体を挟んだコンデンサを角速度ωの電圧で励振したとすると、

    \begin{eqnarray*} E&=&E_{0}\exp\left(j\omega t\right)\\ D&=&D_{0}\exp\left\{j\omega\left(t-\tau\right)\right\} \end{eqnarray*}

と置くことができます。これを(2)に代入すると、

    $$ D_{0}\exp\left\{j\omega\left(t-\tau\right)\right\}= \epsilon_0\epsilon_rE_{0}\exp\left(j\omega t\right) $$

すなわち、

    \begin{eqnarray*} \epsilon_r&=&\frac{D_0\exp\left(-j\omega \tau\right)}{\epsilon_0E_0}\\ &=&\frac{D_0}{\epsilon_0E_0}\cos{\left(\omega\tau\right)}-j\frac{D_0}{\epsilon_0E_0}\sin{\left(\omega\tau\right)}\\ &=&\epsilon_r^{\prime}-j\epsilon_r^{\prime\prime} \end{eqnarray*}

となります。ただし、\epsilon_r^{\prime}>0\epsilon_r^{\prime\prime}>0です。
よって、虚部は負になりました。

なお、途中の式変形ではオイラーの公式を使っています。また、最後の式変形では、電界に対し、電束密度の変化が1/4周期も遅れることはないと考えて、\cos\left(\omega\tau\right)>0\sin\left(\omega\tau\right)>0としています。

まとめ

比誘電率の虚部が損失を発生することを示しました。
tanδは虚部と実部の比(の絶対値)であり、tanδが大きくなると損失が大きくなります

実運用上は、δそのものの値を議論することは、まずありません。\lim_{\delta \rightarrow 0}\left(\tan\delta/\delta\right)=1なので、ごく小さければ同じ値ですけどね。

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