ベース接地回路はカスコード接続すると周波数特性が向上します

ベース接地回路は、電流入力、電流出力で、ゲインがほぼ1です。
エミッタ接地回路とカスコード接続するとエミッタ接地回路の周波数特性を向上させることができます。

ベース接地回路の考え方

トランジスタのような3端子素子は、一般に、1つ目の端子を接地(共通化)し、2つ目の端子から入力し、3つ目の端子から出力するという使い方をします。

ベースを接地すると、エミッタとコレクタという2つの端子が残ります。
あなたなら、どちらを入力にして、どちらを出力にしますか?

簡単な大信号等価回路

簡単な大信号等価回路

これは、以前の記事で議論したバイポーラトランジスタの等価回路です。

まず、ベースの電位を固定して、コレクタから入力することを考えます。
このとき、コレクタから見えるのは電流源です。電流値icは、ベースとエミッタ間の電圧差でibが決まり、それをβF倍することで決まるので、コレクタ側から変えることができません。また、コレクタの電位を変えても、電流源のインピーダンスは無限大なので、エミッタの電位を変えることもできません。よって、コレクタを入力端子とすることは不適当です。

次にエミッタから入力することを考えます。

具体例で述べたほうが感覚的に解り易いと思いますので、エミッタ電流を5mAだと仮定します。
このとき、エミッタにおけるインピーダンス(の微分値)を求めてみます。

まず、

    \begin{eqnarray*} ie &=& 5E-3 \\ &=& ib+ic \\ &=& IS\left(\exp{\frac{vbe}{vt}}-1\right)+\frac{IS}{BF}\left(\exp{\frac{vbe}{vt}-1}\right) \\ &\cong& IS \exp{\frac{vbe}{vt}} \end{eqnarray*}

です。ここで、ie:エミッタ電流、ib:ベース電流、ic:コレクタ電流、IS:飽和電流、vbe:ベース・エミッタ間電圧、vt:熱電圧(=kT/q)、BF:順方向のベータです。
ieをvbeで微分するとベース・エミッタ間のインピーダンスZbeの逆数が求まるので、

    \begin{eqnarray*} \frac{1}{Zbe} &=& \frac{\partial ie}{\partial vbe}\\ &=& \frac{IS}{vt}exp{\frac{vbe}{vt}}\\ &=& \frac{ie}{vt}\\ &=& \frac{ie\cdot q}{kT}\\ &=&\frac{5E-3\cdot 1.60E-19}{1.38E-23\cdot 300}\\ &\cong& 0.195\left[S\right] \end{eqnarray*}

となります。ここで、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、q:電気素量です。
よって、

    $$ Zbe=5.18\left[\Omega\right] $$

です。これは、電圧源のように低いインピーダンスの値です。
実際、電圧源の作り方と酷似しています。
普通、電圧源に対し、電圧で入力を与えることは考えません。

よって、ベース接地は、エミッタから電流入力し、コレクタから電流出力を取り出す構成が適当ということになります。

ベース接地回路に可変電流源で入力

ベース接地回路に可変電流源で入力

等価回路を書いてみました。冗長性が高い回路ですね。
下段の可変電流源だけでいいではないですか。

カスコード接続

でも、ベース接地回路を可変電流源で駆動することを無意味と考えるのは早計です。

可変の電流源は、エミッタ接地回路とほぼ等価です。
バイアス回路などを無視して、エミッタ接地とベース接地を接続した、なんちゃって回路図を書いてみましょう。

カスコード接続のなんちゃって回路図

カスコード接続のなんちゃって回路図

ほら、高機能な回路ができました。これをカスコード接続といいます。
どこが高機能なのかって?単純なエミッタ接地回路より、周波数特性が伸びます

理由を説明しましょう。

バイポーラトランジスタは、ベース層をコレクタとエミッタで挟んだ構造をしています。このため、ベースとエミッタ、ベースとコレクタの間には寄生容量CbcとCbeがあります。
また、信号源には出力インピーダンスRがあります。
これらの寄生容量や信号源のインピーダンスがLPF(Low-pass filter)を形成し、帯域を悪化させます。

エミッタ接地回路と寄生容量

エミッタ接地回路と寄生容量

具体例を考えてみます。ここでは、5倍のゲインを持つ、エミッタ接地回路を考えます。(バイアス回路等は省略しています。)

ベースの電圧が0.1V高くなると、エミッタ電圧もほぼ0.1V高くなります。このとき、Cbeにかかる電圧の変化はないので、電荷の状態も変わりません。

しかし、コレクタは0.5V低くなります。すなわち、ベース・コレクタ間の電圧は入力電圧の0.1Vと合わせて0.6V変化します。よって、信号源は、通常動作の他に、抵抗Rを介して、0.6×Cbe[C]の電荷を送り込み、この寄生容量をチャージしなくてはなりません。

見方を変えれば、「Cbcの容量値が(ゲイン+1)倍されたように見える」とも言えます。
結果として、時定数が(ゲイン+1)×RCという大きな値となります。この現象をミラー効果と言います。

カスコード接続と寄生容量

カスコード接続と寄生容量

次に、カスコード接続にしてみます。

Q2のベースを接地すると、Q2のVBEがほぼ一定であるため、Q1のコレクタに電圧変化が発生しません。よって、Cbc1の両端の電圧変化は入力電圧のみの0.1Vに低減します。時定数も短くなり、周波数特性が改善されます。

LTspiceシミュレーション

カスコード接続の効果をLTspiceでシミュレーションしてみます。

エミッタ接地回路のシミュレーション用回路図

エミッタ接地回路のシミュレーション用回路図

まず、エミッタ接地抵抗の回路図を示します。

設計順序は次の通りです。抵抗値はE24系列から選びました。

  • ゲインを約5倍にすることにしました
  • Q1に流す電流を5mAにすることにしました
  • 電源電圧を15Vにしました
  • バイアス時のR4、R3の電圧降下をそれぞれ1V、5Vとすることにしました
  • 電圧降下と電流値から、R4、R3の抵抗値をそれぞれ200Ω、1kΩとしました
  • Q1のVBEを0.6Vとして、ベース電圧を1.6Vと仮定しました
  • Q1のベース側のバイアス電流を、Q1に流す電流の1/10である0.5mAとしました
  • R1とR2の和が約3kΩ(=15V/0.5mA)、分圧電圧が1.6Vということから、R1、R2をそれぞれ27kΩ、3.3kΩとしました
  • 信号源の出力抵抗は高周波の標準的な特性インピーダンスである50Ωとしました

結合コンデンサであるC1、C2はμFオーダであれば、高周波のインピーダンスがシミュレーションに影響しない程度に低くなるため、適当に10μFとしています。トランジスタのモデルには、LTspiceのモデルにあった、2N3904を選びました。秋月電子通商の商品説明のページによれば、2N3904は、2SC1815という定番トランジスタとほぼ等しい電気的特性と記載されていたためです。(ちなみに、このモデルでは、Cbcの目安となるCJCは4 pFです。また、ベース・エミッタ接合は順方向になってしまうので目安にはなりませんが、CJEは8 pFです。さらに、ベース抵抗RBは20Ωです。)

バイアス点を計算させてみると、Q1のエミッタ電流は約4.5mAとなりました。シミュレーションのVBEが約0.7Vで、設計値の0.6Vより大きい値だったので、これが誤差の原因だと思います。でも定性的には影響がないので、気にしないことにします。

カスコード接続のシミュレーション用回路図

カスコード接続のシミュレーション用回路図

次に、カスコード接続を設計します。先ほどのエミッタ接地回路のコレクタと、コレクタ抵抗の間にトランジスタを挟み込んだ形になっています。

カスコード接続の設計順序をエミッタ接地回路の設計順序の続きとして示します。

  • 出力のコレクタ抵抗R8のバイアス時の電圧降下を5Vとしており、振幅も同程度だとすると、Q3のコレクタは5Vになる可能性があります。また、R9の電圧降下が1Vであり、同様に考えると2Vになる可能性があります。よってQ2とQ3の接続点のバイアス点をこれらの中点である3.5Vにしました
  • VBEを0.6Vとして、Q3のベース電圧を4.1Vと仮定しました
  • R11とR12は、バイアス電流を(R6とR7に流す電流と同じ)0.5mAと仮定し、ベース電圧を考慮することにより、それぞれ20kΩと8.2kΩとしました
  • Q3のベースは、C3やC4と同程度の容量C5(10μF)で接地します
シミュレーション結果

シミュレーション結果

LTspiceでAC解析したときのシミュレーション結果を示します。

エミッタ接地も、カスコード接続もゲインは13.5dB(4.74倍)でした。アンプの帯域(使える周波数の目安)は、ゲインが3dB小さくなった周波数で定義しますので、ゲインが10.5dBとなる周波数が帯域です。

エミッタ接地の帯域は64.6MHz、カスコード接続は85.7MHzでしたので、予想通り、カスコード接続の方が21.1MHz高い値となりました。めでたしめでたし。

まとめ

ベース接地回路は、エミッタから電流で入力し、コレクタから電流で出力する回路方式です。単体で使うより、エミッタ接地回路と結合して、カスコード接続として動作させると、ミラー効果を低減させて周波数特性を伸ばすことができます。

なお、カスコード接続は、エミッタ接地のトランジスタ(最後の回路図のQ2)のコレクタ電圧が固定されるため、ベースに入力が入るとベース・コレクタ間の電圧差が若干変化します。ここで、エミッタ接地のトランジスタ(Q2)のエミッタ出力をレベルシフトして、ベース接地(Q3)のベースに供給することを考えます。すると、(Q2のコレクタとQ3のエミッタの)接続点の電圧変化が入力電圧の変化と一致するので、エミッタ接地のトランジスタのベース・コレクタ間の電圧、すなわちミラー容量にかかる電圧、が変化しなくなります。この構成をカスコード・ブートストラップ回路といい、さらに周波数特性を伸ばすことができます。

 

 

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