エンタルピーは、エネルギーです。内部エネルギEと、圧力Pと体積Vの積であるPVの和です。
エントロピーは、系が受ける熱量dQを系の絶対温度Tで割った値です。
エンタルピー
エンタルピーとは
エンタルピーは、エネルギーです。
エンタ「ル」ピーの「ル」は、エネ「ル」ギーの「ル」だと覚えれば、忘れないことでしょう。
エンタルピーHは次の式で定義されます。
(1)
ここで、Uは内部エネルギー、pは圧力、Vは体積です。
内部エネルギーは、内部の分子の運動エネルギーの和です。1 molの気体で考えた場合、
(2)
と表せます。ここで、Nはアボガドロ数、mは分子の質量、<v2>は分子の速度の自乗の平均値です。
また、理想気体の状態方程式は、
(3)
です。ここで、nは物質量(=モル数)、Rは気体定数、Tは絶対温度です。1 molで考えれば、
(4)
です。
ところで、このpVは、単原子分子の理想気体の場合、
(5)
です※)。よって、(5)に(4)と(2)を代入して整理すると、内部エネルギーは、
(6)
となります。
また、(1)に(6)と(4)を代入すると、
(7)
です。最後のCpは、単原子分子の理想気体の定圧比熱です。
(こんなこと書いてあるサイトを見かけませんが、合ってますよね?)
エンタルピーの単位
エンタルピーは、エネルギーですから、単位は[J]です。ただし、物質量当たりの[J/mol]や、kgあたりの[kJ/kg](比エンタルピー)が使われることもあります。
飽和蒸気表の比エンタルピー
飽和蒸気表には比エンタルピーが記載されています。
この表に書かれているということは、気体だけでなく、液体にも使えるということです。つまり、発電などに使われている蒸気サイクルに使えます。これって、かなりすごいことだと思いませんか?
ところで、飽和蒸気表の比エンタルピーの原点は0℃にあるので、注意が必要です。
1気圧(0.101325 MPa)における比エンタルピーは419.064[kJ/kg]です。(pVの影響は0.1[kJ/kg]程度なので、無視すれば、)この値を100で割った値が水の平均的な比熱になります。
エントロピー
エントロピーとは
僕は物理屋さんではないので、エントロピーを使うのは、カルノーサイクルやランキンサイクルにおけるT-s線図を見るときくらいです。

カルノーサイクルのT-s線図
エントロピーsは、次の式で表されます。
(8)
ここで、dQは系が受け取る熱量、Tは絶対温度です。
よって、T-s線図で、sの変化量を調べ、それにTをかければ、熱の収支が計算できます。言い換えれば、T-s線図上の面積は熱量を示します。変化が右に向かえば系が熱を受け取り、変化が左に向かえば系から熱が放出されます。
図において、カルノーサイクルが1→2→3→4の経路をたどるとすると、12BAの面積が等温膨張で受け取る熱量であり、43BAの面積が等温圧縮で外に出す熱量です。(カルノーサイクルは可逆機関であり、逆の経路をたどる場合、熱の出入りは逆になります)
エントロピーの単位
エントロピーは、系が受ける熱量dQ[J]を系の絶対温度T[K]で割った値ですから、単位は[J/K]です。ただし、ただし、物質量当たりの[J/mol K]や、kgあたりの[kJ/kg K](比エンタルピー)が使われることもあります。
エントロピーが増大するとはどういうこと?
エントロピーが増大することは、誰でもなんとなく知っています。でも、どういうことでしょうか?
例えば、ボイラーで蒸気を作ることを考えてみましょう。
エントロピーは、ボイラーにおける燃焼室と水管内の水をひとまとめにして考えたときに増大します。
(最近は、石炭火力でも超臨界圧ボイラーが主流で、水圧を25MPa程度に加圧するので、沸騰することがありません。そこで、ここでは今から50年くらい前に使用されていた圧力を使うこととします)
ボイラーに供給する水の圧力を16MPaとすると、水管の中で沸騰する温度は、約347℃になります。この温度は、水が全て水蒸気になるまで一定です。つまり、この過程ではエントロピーを簡単に計算することができます。
燃焼室の温度は常に1,000℃だと仮定とします。この条件下で、1kJの熱が燃焼室から水管内の水に熱が伝わったときのエントロピーを計算してみます。
先ず、燃焼室が失ったエントロピーds1は、
(9)
です。
次に、水管内の水が受け取ったエントロピーds2は、
(10)
となります。よって、
(11)
となり、エントロピーが増えていることが確認できました。
計算過程を見ればわかるように、エントロピーが増えた原因は、温度差があることです。
カルノーサイクルは、系の外と温度のやり取りをする際に、温度差がありません。このことは、カルノーサイクルが可逆過程であることのミソの一つです。
エンタルピーとエントロピーの関係
エンタルピーとエントロピーは、等温の過程において、関係が生じます。
例えば、飽和蒸気表で、16MPaの347.33℃における飽和液線上(沸騰直前の水)の比エンタルピーh’は1650.54[kJ/kg]であり、飽和蒸気線上(水分が全て蒸発した直後の水)の比エンタルピーh”は、2584.9[kJ/kg]です。
このとき、1kgの水が受け取るエントロピーdsは、
(12)
となります。
ちなみに、表では、r/T=S”-S’の欄が1.50604[kJ/kg K]となっています。有効数字が5桁なので、微妙な誤差は仕方ないですね。
T-s線図とP-V線図がなぜ必要か?
T-s線図とP-V線図のそれぞれの存在意義はどこにあるのでしょうか?
T-s線図は、熱の収支を見るチャートです。ループで囲まれた面積は、系に取り込まれる熱量と吐き出す熱量の差です。
P-V線図は、仕事の収支を見るチャートです。ループで囲まれた面積は、外への仕事と外から与えられた仕事の差です。
カルノーサイクルは、可逆機関なので、熱エネルギは全て仕事のエネルギーになります。つまり、P-s線図の面積とP-V線図の面積は等しくなります。この、面積が等しくなることが、2つのチャートの存在意義を分からなくしている原因の一つだと思います。どっちで議論しても同じに思えます。
実際の熱機関では、摩擦などの影響で、取り込まれた熱量が全て仕事になる訳ではありません。よって、P-V線図の面積の方が小さくなるはずです。
よって、熱量に注目したいのか、仕事に注目したいのか、それをまず明らかにしてから、チャートを使い分ける必要があります。
まとめ
熱力学について、2週間ほど悩んでみました。
エンタルピーとエントロピーについて少し解ったような気がしたので、記事にしてみました。
でも、正直言って、全体像が全くつかめていません。特に、定積比熱については、納得がいきません。
不思議な事項もいろいろ出てくるものです。ランキンサイクルのT-s線図において、水を加圧すると、温度が上がるように書いてありますが、どの程度上がるものなのでしょうか?また、再熱ランキンサイクルにおいて、T-s線図をよく見かけますが、P-V線図を見かけないのはどうしてなのでしょうか?ここでは疑問を上げるだけにして、将来、何かしらの知見を得たら、記事にしたいと思います。
エンタルピーは内部エネルギEとPVの和です。これが、熱力学に影響を与えました。
また、力学的エネルギーとPVの和を考えることで、ベルヌーイの定理が導かれます。
よって、何かと何かのエネルギーの和を考えると、新しい分野を拓くことができるかもしれません。
※)参考文献:竹内 淳:高校数学でわかるボルツマンの原理、ブルーバックス、講談社、2008.
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