高速・高周波回路の設計をしていると、ある実効的な誘電率のもとにおける伝送線路の特性インピーダンスや伝搬速度を考慮する場合があります。

今、単位長さあたりの抵抗値がR、インダクタンスがL、漏れコンダクタンスがG、キャパシタンスがCの伝送線路を考えます。
損失が少なければ、すなわち、R≒0、G≒0であれば、特性インピーダンスの近似解は、
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です。これが、真空中の解だとすると、実効的な誘電率のもとでは、
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となります。
実効的な誘電率がεrなら、容量Cがεr倍されるためです。
また、伝搬速度の近似解は、
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です。同様に、これが、真空中の解だとすると、実効的な誘電率のもとでは、
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となります。
本記事では、これらの近似解が求まる理由を述べます。
特性インピーダンス
伝送線路の図を再掲します。

この伝送線路の長さΔxにおける電圧と電流の変化を考えると次の2式が成り立ちます。
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(1)から

となり、(2)から

となります。
ここで、
、
とおくと、(3)は、

となり、(4)は、

となります。
(5)をxで偏微分すると、
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となり、これに(6)を代入すると、

となります。ただし、
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です。
Vについて解くために、
とおくと、
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つまり
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となり、(7)と同じ形になるため、
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となります。
微分方程式は、解の線形結合も解なのでVは、
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と求まります。また、Iは、(9)を(5)に代入して、

となります。ただし、

です。
(9)と(10)において、
又は
とすると、
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となります。電流の向きは正負の方向を取り得るものの、
は伝送線路特有のインピーダンスとみなすことができ、これを特性インピーダンスと呼びます。
式(11)から、特性インピーダンスは、R≒0及びG≒0とみなせる場合には、
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と近似できます。
伝搬速度
式(8)で示したγは実部αと虚部βに分けることができます。αは減衰定数と呼ばれ、xに対する減衰の度合いを示します。βは位相定数と呼ばれ、xに対する位相の変化の度合いを示します。
これを解いてみます。
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とおくと、

なので、両辺の虚部から、
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となります。よってこれを実部に代入して、

となります。
二次方程式の解の公式を使うと、

となります。ここで、複号が負だと、αが虚数になり不適なので、
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となります。
βについても同様に解けます。まず虚部から、
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なので、

となります。これを(13)と比較すると、2次の符号が違うだけなので、
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です。
ここで再び、v(x, t)、i(x, t)について考えてみます。


ここで、それぞれの第1項目の
において、
は、xが大きくなるにつれて、電圧が減衰していくことを示しています。
は位相を示していて、
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を満たす場合、位相が一定であることを示しています。
両辺をtで微分すると、

となり、速度のディメンションの条件が得られます。これは位相速度と呼ばれ、波の伝わる伝搬速度を表します。ω>0、β>0なので、これはxの正方向に伝わります。
第2項目も同様に解析すると、
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となり、これはxの負方向に伝わる波を表します。
次に、伝搬速度の近似解を考えてみます。式(15)で、損失が少ないと仮定してR=0、G=0とすると、

となるので、
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となります。
メータ5ナノ
高速回路を設計していると、「メータ5ナノ」という近似値をしばしば使います。同軸線路1mあたりの遅延時間が5nsという意味です。
これは、同軸ケーブルに用いる誘電体が、主としてポリエチレンであることに起因しています。
真空の誘電率ε0と透磁率μ0は、有効数字を3桁とすると、それぞれ8.85E-12[F/m]、1.26E-6[N/A2]です。また、ポリエチレンの誘電率εrを2.35とすると、同軸ケーブルを伝わる信号の速度は、
![Rendered by QuickLaTeX.com \begin{align*} v&=\frac{1}{\sqrt{LC}}\\ &=\frac{1}{\sqrt{\mu_0\epsilon_0\epsilon_r}}\\ &\cong\frac{1}{\sqrt{1.26\cdot10^{-6}\cdot8.85\cdot10^{-12}\cdot2.35}}\\ &\cong\frac{2.99\cdot10^8}{\sqrt{2.35}}\\ &\cong1.95\cdot10^8\left[m/s\right] \end{align*}](https://miscellaneous.tokyo/wp-content/ql-cache/quicklatex.com-bf69088cf081f9d1f8cc33658a71a990_l3.png)
です。途中の2.99E8[m/s]はもちろん真空中の光速です。
よって、1mを進むのに要する時間は、
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となり、大体「メータ5ナノ」ということになります。



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