RC回路の時定数τ[s]は、抵抗とキャパシタンスの積であるRCです。
RC回路の立ち上がり時間Tr[s]は、2.2τです。
RC回路の帯域f[Hz]は、0.35/Trです。
本記事は、高速回路でよく用いられる、これらの関係性について述べます。
高速回路でRC回路が用いられることが多い理由
高速回路でRC回路が用いられることが多い理由は、第1に、インダクタンスが作りにくいためです。
基板上にミアンダ(蛇行)型やスパイラル(うずまき)型のインダクタンスを作ったことがありますが、寄生素子の影響で、周波数的にフラットな特性を得ることができませんでした。よって、高速回路の受動素子としては、抵抗とキャパシタンスが主要な部品となります。
第2に、RC回路が、サンプルホールド回路(又はトラックホールド回路)の基本構成になるためです。サンプルホールド回路は、AD変換器の前で、入力される電圧を一時保持するための回路です。これらの回路はデジタルオシロスコープのフロントエンドを構成するために不可欠です。RC回路の性質を知ることは、高速回路の主要測定器であるオシロスコープを使いこなすための第一歩にもつながります。
RC回路の時定数
キャパシタに電荷が溜まっていない状態から、t=0でSWを投入したときのRC回路の過渡応答は、前の記事で、
であることを示しました。
RC(=τ)は時間の次元を持ち、時定数と呼ばれます。時定数が大きくなると過渡に要する時間が大きくなります。
RC回路の立ち上がり時間
立ち上がり時間とは、定常状態の電圧値をVとしたとき、0.1Vから0.9Vになるのに要する時間です。
RC回路の場合、式(1)から、定常状態の出力電圧はViとなります。そこで、0.1Viになる時間を求めると、
同様に、0.9Viになる時間は、
から、
となります。よって、立ち上がり時間Trは、
です。
※超高速の信号では、0.2Vから0.8Vとなる時間を立ち上がり時間と言う場合もあります。その際はもちろん2.2τではありません。でも、そのような場合、立ち上がり時間と時定数の関係を議論した記憶がありません。
帯域とは
高速・高周波回路では、「帯域」という言葉を使います。定性的には、「回路が使える周波数範囲」と言えます。定量的には、「出力電力がピーク値の半分になる周波数範囲」です。デシベルで考えると、ピーク電力をPとして、
となります。つまり、ピークより3dB落ちたところの周波数が帯域の境目になります。
帯域の境目の周波数のことを帯域と呼ぶ場合もあります。
RC回路の帯域
ここで、RC回路の帯域を考えてみます。回路図を再掲します。
まず、ある角周波数ωにおける出力Voを考えると、
です。よって、入出力電圧の比である伝達関数G(ω)は、
です。|G(ω)|はω=0のとき最大で、|G(ω)|=1となります。
次に、帯域を考えます。
キャパシタにかかる電圧がVのとき、蓄えられる電力は、
です。よって、帯域の境目となる電力が半分となる周波数では、
となり、振幅はとなります。
すなわち、
となります。式(3)又は式(4)が求める帯域です。
RC回路の帯域と立ち上がり時間の関係
ここまでくれば、RC回路の帯域と立ち上がり時間の関係は、式(2)と式(4)から導くことができます。
すなわち、式(2)から、
であり、これを(4)に代入すると、周波数帯域は、
と求まります。
まとめ
本記事では、RC回路の立ち上がり時間Tr[s]が2.2τ、帯域が0.35/Trであることを導きました。
これらの関係は、サンプルホールド回路、AD変換器、オシロスコープ等を設計する際に重要です。
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